2009年12月6日、13日

民活の限界 PFIとは何だったのか

病院企業団議会(11月26日)
オリックス側の実質的な「全面降伏」に等しい条件で契約が解除されることになった高知県・高知市病院企業団立「高知医療センター」のPFI事業。先行した近江八幡市の契約解除では同市がSPCに約20億円もの違約金を支払ったことと比べて、高知医療センターの負担額7700万円は画期的な成果であるといえます。

11月26日の企業団議会ではPFI契約解除にむけた議論をリードしてきた日本共産党の米田稔議員が「ここまでこぎつけた企業団の努力を高く評価する」と発言。「直営化による財政的なメリットにとどまらず、指揮命令系統がはっきりし、患者が近くなる。チーム医療ができることは大きい。企業団の責任は重いが、患者中心の良い病院をつくってほしい」とエールをおくりました。

自民は導入を絶賛

PFIの本質が、財界が公の事業を儲けの場にするための「規制緩和」、「民間活力」であることは明らかです。平成11年のPFI法施行直後から、自民党を中心に公共事業へのPFI導入へ大合唱が県議会で起こります。橋本大二郎・前知事は、高知医療センターの開院準備を一手に背負い院長に就任した瀬戸山元一氏の強い意向もあり、全国初の公立病院PFIへと踏み出します。

13年10月1日、県議会本会議質問で自民党の中西哲議員は「PFI手法により実施していくという全国に先駆けた建設・運営形態を選択したということは、時宜を得た意思決定であると評価する」と知事の決断を絶賛。答弁に立った橋本前知事は「従来は単年度で個別の業務ごとに委託契約をしてきたが、PFI方式では長期的な一括契約となるため中長期的な展望のもとに計画的でかつ効率的な業務の執行が可能となる。公共が担う医療サービスとの間で一体的かつ有機的な運営も可能になり、こうしたメリットが、ひいては患者のサービス向上にもつながる」と今となってはまったく実態にそぐわない、的外れな認識を示していました。

さらにSPCがオリックスグループの高知医療ピーエフアイ社に決定したことを受けて橋本前知事は、14年12月9日の県議会本会議で「30年間の長期にわたるPFI事業がスタートした。官と民とのパートナーシップにより、医療の質とサービスの向上や安定した病院経営といった面で全国のモデルとなる病院づくりを目指す」と述べています。

しかし、17年3月1日に開院した同センターは、開院直後からPFIで期待されていたVFMが発揮されないことから経営が思わしくなく資金繰りが難渋。19年には瀬戸山院長がオリックス・リアルエステート(現オリックス不動産)社員から不当な接待や高級家具の供用されていた贈収賄容疑で逮捕されます。

この事態を受け、同年12月の高知市議会は、日本共産党と保守系会派が共同して動いて全会一致で「PFI契約解除を視野に入れた」経営改善決議を上げ、SPC=オリックスへの県民的批判が一気に高まる中、PFI契約の解除が政治的な争点に一気に浮上してきました。(2009年12月6日 高知民報)

19年、橋本大二郎氏に替わって就任した尾崎正直・県知事の下でも高知医療センターのPFI契約解除への道のりは平坦ではありませんでした。

SPC=オリックスは同センターの経営が苦しく、県と高知市が税金を投入して経営を懸命に支える中でも、マネジメント料と称して年間5億円もの委託費を受け取り、自社の儲けはしっかり確保。

「VFMが出ているかどうかの判断は30年後にすべき」という横柄な論法を展開して長期契約に胡坐をかき、経営改善のために企業団が提起した6億円の経費削減要求には「不当な委託料の削減には応じられない」(20年12月)と高飛車に拒否しました。

このような状況を受けて21年1月15日、山崎隆章・病院企業団企業長が「このままではPFI事業を続けていくことが困難であることは明らか」と発言するに至り、1月20日には尾崎正直・高知県知事が岡崎誠也・高知市長ともにオリックス社を訪問し、西名弘明・副社長と直談判します。

ところが、この場で尾崎知事は「6億円の削減が難しいのであれば、現行スキームを見直す必要がある」とSPCへの譲歩ともとれる発言をし、さらに1月23日の記者会見で「どんな見直しをしても(PFI事業を)継続できないというのは軽率だ」と企業団の批判までしました。

企業団の頭越しに、SPCに譲歩する知事の発言には、「知事はどちらの味方か」、「味方の大将に後ろから撃たれた。これでは喧嘩ができない」、「企業団は独立した自治体。知事であっても一方的に指図できる関係ではない」などと関係者は強く反発しました。

後手にまわった高知県、高知市

しかし企業団は知事発言の後も、契約解除への準備を着々とすすめ、20年3月には企業団議会が「SPCの姿勢に変化が見られない場合はPFI事業を継続しない選択を視野に入れた検討が求められる。企業団は不断の決意を」という内容の決議を予算に付帯させSPC=オリックスを追い込んでいきます。

そして6月16日に開かれた企業団議会で、SPC「高知医療ピーエフアイ社」側から、「PFI契約を解除したい」旨の申し出があったことが報告されました。

SPCはなぜ一転して自ら契約解除申し出へと転じたのでしょうか。山崎企業長は高知民報社の取材に対し「いつまでも批判されながら居座るより、早く手を引いたほうが得策だとオリックス上層部が判断したのではないか。SPC代表が病院議会に出席させられて追及されることもかなり堪えていたようだ」とコメント。

このような事態となり、知事もPFI事業継続を前提にしたオリックスに妥協的な姿勢から転じ、「施設建設PFIで出たVFMを運営PFIで食いつぶしている。今(PFI)をやめることができれば損はない」(6月26日の記者会見)と述べ、「SPCの存在そのものが病院経営の足かせ」になっているという認識にようやく至りました。

ここに至るまで高知県・高知市の対応は後手後手にまわり、企業団現場の熱意と企業団議会、県・高知市議会のイニシアティブと県民世論に支えられ、かちとられたPFI契約の解除でした。

契約解除によって、SPCという足かせがなくなったとはいえ、今日の自治体病院、とりわけ県民の命を守る「最後の砦」として多くの不採算部門と多額の減価償却費を抱える高知医療センターの経営が今後も困難を極めることには変りなく、先行きを楽観できるものではありません。自治体病院が住民本位の医療を提供していくためには、国の医療政策の根本的な転換が強く求められています。(2009年12月13日 高知民報)

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