2008年12月7日

高校学区2012年全廃 一極集中に拍車 周辺校の淘汰も 教育費負担増の論議皆無 定例県教委
学区撤廃を決議した定例県教委(11月25日)
県立普通高校の通学区域の撤廃を検討していた県教育委員会(宮地弥典委員長)は、11月25日に開かれた定例教育委員会で2010年度から高知学区の区外定員枠を増やし、2012年度には学区を全廃して全県一区とする規則改定案を全員一致で議決しました。学区制をめぐっては、受験者が高知市内の高校へ一極集中する傾向に拍車がかかることと同時に、周辺部の高校の統廃合が進み、遠距離通学を強いられて通学費負担が重くなる生徒の増加が懸念されることから、高知市教委や南国市教委、梼原町長などから反対意見が出されていました。

改定された規則の内容は、@東部学区、高吾学区、幡多学区については2010年度から撤廃、A高知学区については現行10%の区外定員を2010年度15%、2011年度20%へと段階的に拡大し、2012年度に全廃するというもの。

定例教育委員会の審議では、「区外枠を段階的に拡大していく必要はないのではないのか」(中沢清一委員)、「撤廃しても問題ない。高知には学区制の意味はない。現状ではだいたい地域の高校に行っている」(河田耕一委員)などという発言が出されました。

河田委員はさらに「遠いところに行っているのが非常に少ないのは問題。中学の延長のように考えて単に近い高校にいっている。これでいいのか」(発言要旨)など、遠距離通学によって月額数万円にもなる高額な通学費が家計を圧迫している県民生活の実態を理解していない発言を繰り返しました。

他委員からは学区撤廃の影響を大きく受ける高知市へ定数の調整で配慮することや、周辺部高校の進路保障対策の強化などを求める意見も出されましたが、採決では6人の委員の全会一致で改定案が議決されました。

奨学金のPRと再チェックで対応 中沢卓史・高知県教育長

中沢卓史・県教育長は定例県教委での学区撤廃の審議の中で「遠距離通学する生徒が増えることは間違いない」と述べ、学区の完全撤廃により保護者の経済的負担増加の懸念があることを認めていますが、定例教育委員会終了後に開いた会見で解決策として、@行きたくなる高校の特色づくり、A授業料減免や奨学金制度の十分な周知をして就学の機会を奪うことのないようにするとしました。会見での該当部分の発言は以下。

−−学区撤廃に反対していた高知市教委への対応は? 

中沢 高知市教委に賛同はいただいていないが、県全体を考えた時、県教委としては学区を撤廃することにした。もちろん心配する面もあるので、そこには手を打っていかなければならない。

−−具体策はあるのか。 

中沢 遠距離通学する生徒が増えることが予想される。それほど大きな変動はないと考えているが、増えることは間違いない。通学費はJRや電車は比較的安いが、バスは相当高い。こうしたことで進学をあきらめるようなことがあってはいけないので、現在の授業料減免制度や奨学金制度を十分活用していただきたい。そのPRをまずはしたい。それから今、金融危機で経済の先行きも心配される状況もあるので、現在の奨学金制度が今のままでよいかどうかを再チェックしてみたい。

−−貸与ではなく支給にするというような方向なのか。

中沢 そういうことではない。奨学制度の再チェックだ。

−−遠距離通学を考慮した授業料免除制度の拡大は考えないのか。

中沢 授業料については今のところは想定していない。奨学金の見直しはありうるが、検討の結果による。

解説 公共交通機関が未整備な高知県で学区域が撤廃され、遠距離通学する生徒が増えることは、長時間の通学時間による生徒の負担と、多額の通学費が生じることになりますが、学区撤廃を決議した11月25日の定例教育委員会では、このような観点からの議論は皆無。地元高校に通学することを問題視した不見識な発言をする委員さえおり、生徒と家族の実態をふまえた議論は見あたりませんでした。

県教委事務局は審議の中で、現状で区外定員を受験者が超えているのは小津と西だけであり、高知市内から市外校に通学している生徒数は84人、学区を全廃しても旧学区外からの入学は3割程度に収まるので「さほど大きな影響はない」と繰り返しました。

しかし、現行の学区制の下でも小津と西に受験者が集中し、西では後期試験で40人もの不合格者が連年出ています。すでに全県一区となっている追手前では4割程度の「区外」入学があり、県民生活の悪化から私立から公立へとシフトしていく流れを考えると、「大きな影響はない」などといえる状況ではありません。

また県教委は全日制高校を2013年度までに現行39校から31校程度にまで減らす計画をもっていることから、学区撤廃とリンクして高校統廃合への動きが一気に再燃することも考えられます。(2008年12月7日 高知民報)