連載  百条委と知事選の取材メモから
                       2度の知事選挙で明らかになったものは


@依光自民党県議の爆弾質問


2003年10月1日「高知新聞」 依光質問とタイアップしたかのように間髪を入れずに掲載されたが、笠氏自身が後日この記事を否定することになる


県議会は2004年9月21日、「坂本ダム等調査特別委員会(百条委員会・元木益樹委員長)が、平成3年の橋本大二郎氏の知事選挙に関わった笠誠一氏が建設会社が談合で捻出した裏金を選挙資金に充当したと断定する報告を賛成多数で承認。約1年の調査を終えました。昨年9月、自民党・依光隆夫議員の県議会質問で表面化した「選挙資金疑惑」。百条委員会は何を明らかにすることができたのか。取材メモから振り返ります。

県知事選挙(2003年11月30日投票)を目前に控えた2003年9月30日の9月定例県議会本会議質問で自民党の依光隆夫議員が「爆弾質問をするらしい」という話が県庁や議会周辺から聞こえてきました。

議会開会日の9月24日には橋本知事が4選出馬を表明。直前の18日まで自民党県議団は橋本知事とコンタクトをとり意見交換しようとするなど全面対決する雰囲気は表面化していませんでした。マスコミの主な関心も解散総選挙にむいており、風雲急を告げる動きに戸惑いを感じながら、そういえば夏あたりから高知新聞の記者が「知事は4選してもすぐに辞めることになるだろう」と得意げに言っていたことを思い出しながら、県議会本会議場に足を運びました。

議場のドアを開けた瞬間、ただならぬ雰囲気。超満員の傍聴席は異様な熱気で、動員されてきたと思われる着飾った女性が「橋本はしょういかん」とささやきあっている声があちこちで聞こえてきます。

依光議員は第1問で「橋本県政の12年を総括する」と言いモード・アバンセへのヤミ融資や知事の次男の起こした事件について指摘したうえで、第2問で「ここに平成3年の選挙におきまして知事が特別の業者などから選挙費用を調達したとの疑惑を示す文書があります。選挙参謀であった笠氏からの直筆の文書であります」といわゆる「笠メモ」を談合した企業名を隠して読み上げました。依光質問の終了直後に、すかさず県民クラブの江渕征香議員が「特別委員会および百条委員会の設置を求める」と発言。この時点では何の物証もないにもかかわらず、地方自治法百条にもとづく特別委員会設置への流れが自民党、県民クラブによって急速に作られていきます。

翌日10月1日の高知新聞には笠氏と橋本知事の全面インタビュー記事が掲載され(写真参照)、3日には自民党が推す松尾徹人高知市長が高知市政を投げ出し知事選挙立候補を表明するなど、事態は急速に動き始めます。一連の連続した流れは水面下では事前に周到な準備があったことを物語っていました。

10月1日の高知新聞インタビュー記事は依光質問とタイアップして「疑惑」の筋書きを示す重要な役割を果たしました。同紙は記事の中で知事と共に笠氏を3段のバストアップ写真で大写しにして「県が発注予定だった坂本ダムの工事でということになった。当時すでに談合で落札が決まっていた共同企業体の代表業者を別の業者にひっくり返した。それでその共同企業体の代表業者と県内業者から金を出させることにした」と疑惑の核心を語らせました。ところが調査の中で「談合をさせて金を出させた」というできすぎたシナリオは後日、皮肉なことに笠氏自身によって否定されることになるのでした。(中田宏)