2010年1月17日

連載「どこへ行く高知の教育」 Q分校併置 日高養護規模適正化には疑問符

日高養護学校高等部の授業
高知県教育委員会は知的発達障害を持つ子どもの入学増加により生徒数が増加している県立日高養護学校を適正規模にする対策として、高知ろう学校(高知市中万々)の敷地に日高養護学校高等部の分校を併置する計画をすすめています。この計画には、ろう学校の保護者から静謐な環境が何より重要な聴覚障害児への教育の質低下を懸念する声があがると同時に、高等部だけの分校を併置しても日高養護学校の規模適正化にはつながらないという指摘が出ています。

県教委の計画では、現在の高知ろう学校西門側にある産業技術科棟、自動車塗装科棟(平成23年度に廃止)を改修して23年度から1学年16人、定員48人の日高養護学校高等部分校を併置。職業教育に力を入れた教育課程を想定しています。

当初、県教委は「なるべく予算をかけない」ようにと、ろう学校の生徒の使っている実習室を新分校生と共用させる計画を示していましたが、実習室は現状でも空きがないうえ、聴覚障害を持つ生徒への作業指示は指導員の口話(口の形で言葉を読み取ること)と手話で行なわれることから、両者が対面できるゆとりのあるスペースが必要だと学校現場・保護者から猛反発を受けて断念した経過があります。現在は、ろう学校用の実習室を別棟に新築する方針に転換。中沢卓史・県教育長は「ろう学校の生徒と分校の生徒の動線を分離する。実際にやってみれば問題はない。不安は解消されるはずだ」。

寄宿舎の重要性

日高養護学校には小学部、中学部、高等部が設置され、146人の児童生徒が在籍。内訳は小学部14人、中学部48人、高等部84人。小学校段階では障害を持つ児童の多くが地域の小学校の特別支援教室で学んでいるものの、中学高校と進学するにしたがい特別支援学校を希望するケースが増えていることが分かります。

そこで県教委は高等部のみの新分校設置で日高養護学校本校の生徒増を解消しようとしていますが、日高養護学校に通う生徒の大半は寄宿舎に入っており、自立にむけた生活の場として寄宿舎の果たす役割がは大きいことから、保護者からは「寄宿舎がない学校にはいかせられない」という声が根強くあります。

このために新分校設置は、自宅通学している高知市立養護学校や高知大付属特別支援学校を選んでいた中卒生の選択肢としての役割はあっても、そもそもの目的である日高養護学校の規模適正化にはつながりにくいという指摘が関係者から出ています。

また新分校が取り組もうとしている職業教育は、専門的な技術を身につけるより「外部に出向いた研修が主」(県教委関係者)と、企業や作業所に順応させる訓練に重きを置くことが予想されており、職業教育に特化した定員のある高等部という性格からしても、あらかじめ就職ができそうな生徒を選別する懸念が指摘されています。「中学まで地域の学校に通っていた軽度の生徒を対象にしている」(特別支援教育課)。

校外研修の機会が多いとなれば、その懸念はなおさらで、障害の程度にかかわらず、一人ひとりの子どもに応じて発達を支援する障害児教育の根本を歪めることにもつながりかねません。(つづく)(2010年1月17日 高知民報)