2009年11月22日

連載「どこへ行く高知の教育」 Pろう学校 専門性低下への懸念

高知県立ろう学校(高知市中万々)
県教委はここ数年の発達障害児の入学増加などによって生徒数が過大になっている日高養護学校、山田養護学校を適正規模にしていくための対策として、県立高知ろう学校の敷地内に日高養護学校高等部の分校を、県立中芸高校(田野町)の校舎内に山田養護学校小中高等部の分校を併置することを柱とした県立特別支援学校再編計画第一次(案)をこのほど公表しました。

この案は、日高養護と山田養護の規模適正化に向けて、遅きに失したとはいえ県教委自らが主体的に動いたという点で一定の評価ができるものの、既存施設を使いまわして「安上がりに済ます」という発想があまりにも先行し、木に竹を接ぐような整合性のない具体像が明らかになるにつれて、保護者や現場の教職員から懸念する声が強く上がるようになってきています。 

ろう学校の場合

高知ろう学校には中程度以上の聴覚障害をもつ生徒(幼稚部から高校を卒業した専攻科まで)33人が在籍しています。高知市中万々の敷地は閑静な住宅街に囲まれ、落ち着いて学べる恵まれた環境にあります。

県教委が当初持っていた計画は、西門側に位置する産業技術科棟、自動車塗装科棟(平成23年度に廃止)のスペースに日高養護高等部の48人(一学年16人×3)を順次受け入れ、職業教育に力を入れた教育課程を想定。現在ろう学校の生徒が使っている木工製品などを製作する実習室は共用するというものでした。

しかし、@実習室は現在でも週60時間もの利用があり(授業数は週30時間なので常に利用が重なっている)、これ以上の利用はできないこと、A実習室は木工用電動ノコギリなどの刃物を使う危険の伴う場所であり、指導員の聴覚障害を持つ生徒への指示は、口話(口の形で言葉を読み取ること)や手話で行なわれることから、常に両者が対面していなければ指示が理解できず危険があるために、定められた立ち位置と、ゆとりを持ったスペースが安全確保のために絶対に必要であるという事情があることから、実習室の共用にはろう学校の保護者、現場教職員が猛反発。県教委も共用は困難であるという認識に転じていますが、それに代わる新分校の職業教育の方向性はまだ具体的に示されてはいません。ろう学校が長年培ってきた専門性を守り、生徒の安全を確保していくために、また新分校の最大の特色である職業教育を充実させていくためにも、核になる実習室を共用で済ませるようなことでは許されません。分校用の実習室を新たに構えるのが県教委の責任であるといえます。

高知ろう学校の施設には、教員の会話を生徒の補聴器に混線を避けて的確に伝達するために、全室の床下に「フラットループ」という磁場による補聴器システムが埋め込れているなど、聴覚障害児の教育に特化した学校であり、生徒が静かな空間で教師の言葉をじっと聞くことが教育上極めて重要であるという特徴があることから、施設の工事や教室・実習室の移転ひとつをとっても、簡単にはいかない困難さがあります。(つづく)(2009年11月22日 高知民報)