2009年10月25日

連載「どこへ行く高知の教育」 O高校授業料無償化の衝撃

県立高知西高校 文中と関係はありません
民主党新政権が公約の目玉として打ち出した高校授業料無償化の来春からの実施が来年度予算の概算要求に文部科学省が相当額4624億円を計上したことにより一気に現実味を帯びてきました。

高校授業料無償化は、これまで日本社会に長く定着してきた「小中学校は義務教育なので無料、高校は義務教育ではないので授業料を払うのは当たり前」という考え方を根底から覆す高校教育にとっての歴史的転換点。

新政権が実際にどのような形で無償化をすすめていくのかはまだ固まりきっていない点があるものの、公立高校では各自治体に授業料収入分相当額を国費で補助し、生徒からは授業料を徴収しない形態になることはほぼ確実。このような形で無償化がすすめられた場合、県立高校にどのような影響があるのでしょうか。

川村文化美・県教育委員会高等学校課長は「まだ国から話はきていないが、自治体に相当額が補助されるということであれば、学校が授業料徴収の事務をしないだけですむので特に混乱はないだろう。ありがたい話だ。いったん無償ということになればもう有償に戻ることはないのではないか」。

ある県立高校長は「今まで、ずっと授業料を親が払うのは当たり前だと思ってやってきた。急に無償と言われても実感がないが、今後いろんな考え方を大きく変えていかなければならないだろう」と話します。

17億円

高知県の年間授業料収入の見込みは約17億円。そのうちの1億1000万円は所得の低い家庭の生徒の授業料を減免するために実質的には一般財源を投入して補填しています。

新政権が授業料収入相当額を県に補助する形で無償化をすすめるならば、@保護者負担が全日制の場合は年間11万円8800円軽減され、滞納を理由とする中退がなくなる、A授業料徴収事務や滞納への対応にかかる県教委と学校のマンパワーと経費が不要になる、B授業料減免にかかる事務と投入してきた1億1000万円の県の財源が「浮く」など、その恩恵ははかり知れません。

「授業料を親が滞納するかどうかは子どもには関係ないのに、金の話を教師が生徒にしなければならず本当に辛かった。これがなくなれば教師は本当に助かる。教師が授業料減免の煩雑な手続きから解放されることで、本来の教育により集中できることも期待できる」と前出の県立高校長は評します。

課題

国の自治体への補助額が本当に高知県の場合であれば17億円全額が保障されるかどうかは、今後の大きな課題です。新政権が額を削りこんでくるようなことになれば、国の一方的な都合で地方に負担を強要することになり許されません。

全額が補助された場合でも、「浮いた」マンパワーや財源をを教育以外にまわすのではなく、教職員がより教育的に生徒にむかえる方向への充当、保護者負担をより軽減させていく方向へと使わせることが肝要です。

現在の県立高校授業料(全日制11万8800円)が無償化されたとしても、実際に子どもを高校に通わせるためには高額な制服や教科書代、上履きや体操服、武道具、工業高校などでの実習器具、PTA関連経費、空調設備や電気代など多額の保護者負担、さらに県教委が普通高校の通学区域の廃止(2012年度から全廃)を強行したため遠距離通学による通学費負担増大も想定されるなど、授業料以外に高額な保護者負担が依然として存在している実態があります。

公立高校の授業料無償化だけでよしとするのではなく、公費で負担すべきものは公費で負担し、保護者負担のさらなる軽減、真の無償化に近づける努力を、「浮いた」財源やマンパワーをテコにすすめていくことが、県教委に課せられた使命ではないでしょうか。(つづく)(2009年10月25日高知民報)