2009年5月3日

連載どこへ行く高知の教育 K県高校奨学金の問題点 貧弱な返還猶予(3)
県高校奨学金を利用している生徒は、貸与期間が終了した時点(正規の修業年限まで)で、借用書および返還計画届を県教委に速やかに提出しなければなりませんが、ここで再度申請時と同じように連帯保証人に対して実印の押印と印鑑証明を添付させることになっています。

「同じ人物なのになぜ二度も印鑑証明が必要なのか。本人の署名があればよいのではないか」との質問に対して、県教委高等学校課は「申請時に提出された誓約書とは別書類なので流用はしない」。そうであるなら申請時に誓約書に実印を押させている意味はどこにあるのでしょうか。

返還計画は一括、月賦、半年賦、年賦の形態のいずれかを、貸与金額に応じて7年間〜20年かけて(※1)返還することになります。

公立自宅生が3年間借りた場合には月額貸与額18000円×3年=64万8千円。

このケースでは返還年数の限度は9年で、月賦を選択した場合には月額6000円の返済額となります。返還開始は貸与終了後6カ月後から。ここで問題になるのが、その時点での本人の置かれている状況や、収入・健康状態などに現行の制度ではほとんど配慮する仕組みがないことです。

返還が免除されるのは本人が死亡した場合、著しい障害を受けた時だけに限られ、返還猶予は大学や専修学校に進学した場合にはその在学中という規定がありますが、基本的にそれだけ。この他に「災害、疾病その他、やむを得ない理由があると認められるとき」という規定はあるものの「どういうケースが該当するのか」という質問には「具体的な取り決めはない。事情によって判断するが、単に収入がないというだけで猶予することはない。実際には猶予した事例はほとんどない」(高等学校課)。返済が滞った場合には延滞金を年利10・95%課しています。

高知県の平成20年度包括外部監査は「貸付金」をテーマに実施されたことから、「高校奨学金」制度のあり方も俎上にのぼりました。

監査報告書では@初回滞納者への電話などによる直接的な督促の実施、A連帯保証人への取立て強化など、債権管理の徹底という観点からの指摘がありましたが、生活に困窮する世帯の生徒の学びを保証する目的で取り組まれている奨学金を、他の債権と同列におき取立て強化を強調するだけでは奨学金の教育的な目的を果たすことはできません。

中沢卓史・県教育長は「外部監査からは厳しい指摘をいただいたが、単なる債権管理とは違う考え方が必要ではないかとも指摘されている。どういう手法が可能か内部で検討しているが、税金を使った制度であるからには、いいかげんなことはできない。保証人を1人にするという要求も、話としては分かるが、非常に悩ましいところだ」とコメントしました。

県高校奨学金は特別会計で運営されており、21年度予算では貸付金の原資を補填するため、約9000万円を一般会計から投入しています(人件費や事務費を入れると約1億2000万円)。

神奈川県教委の高校奨学金制度では、返済猶予が以下のような場合にも認められる規定があります。@留年した場合、A受験活動中の場合、A就職活動中の場合、B生活保護を受けている時、生活保護を受けている時に生計を一にする時、C社会福祉士、介護福祉士、保健師、助産師、看護師、準看護師、臨床検査技師、衛生検査技師、養護教諭、養護助教諭として勤務した場合(良好な成績で勤務した場合には返還が免除される)。

高知県の制度では、高校を留年した場合には在学中に返済猶予がされる運用がされているものの(明確は規定はない)、浪人しても予備校に通わなければ返還しなければならず、生活保護世帯であっても返還は猶予されないなど、奨学金本来の目的から逸脱するような非情な制度になっているのが実情です。県教委は22年度にむけて制度全体の見直しをするとしていますが、本人に十分な収入がない場合には返還を猶予する仕組みを盛り込むことが急がれています。(つづく)(2009年5月3日 高知民報)