経済的に困難を抱える家庭の生徒の高校進学を保障し、高校に行けないことによりさらに貧困に陥る「貧困の連鎖」を回避する重要なセーフティーネットである県立高校授業料免除が、ここ数年、利用する生徒数が10%前後で「頭打ち」しています(別表1参照)。経済的に困窮する家庭は増えているにもかかわらず、利用者がなぜ増えないのか。シーリング(上限)がかかり、困難な家庭の捕捉ができずにセーフティネットの役割が発揮されない実態があります。県立高校授業料免除制度の問題点について考えていきます。
同制度を考えるにあたってのポイントは、@減免の基準、A決定時期の2点。生徒の学びを支える制度としてこれが機能しているのかどうかが問われます。
■全国平均レベル
県下の高校で唯一の市立高校である高知市立高知商業高校(高知市大谷)の授業料免除者数の推移は平成20年で14%(全日制、定時制あわせて)。ここ数年間、急激に右肩上がりで増加しており(別表2)、「頭打ち」がおこっている県立高校とは随分と異なる数字になっています。
背景には高知商業高校は、県教委と異なる基準で授業料減免制度を運営していることがあります。「平成14年度に県教委が現行制度に移行した時、高知市教委は同調しなかった。県教委の制度では必要な生徒がこぼれてしまうという懸念があったから」(高知市教委関係者)。
高知県の生徒総数における減免された生徒の割合の全国的な比較(2007年度データ。朝日新聞社調べ)では、高知県は全国平均レベル。北海道、青森、東京、京都、大阪、兵庫、鳥取、福岡、鹿児島など、はるかに高知県よりも割合の高い都道府県が多くあります。
高知県が「全国一の貧困県」であるにもかかわらず、減免者の割合が全国平均並であるということは、現行制度では困難を抱える世帯を捕捉できておらず、救済できていない生徒が数多く存在していることに他なりません。中沢卓史・県教育長は議会答弁や取材などに答え「奨学金や授業料免除制度がこのままでよいのかどうかを22年度にむけて議論していく。金がないために高校にいけない状況を作ってはいけない」と繰り返し発言しています。
「貧困の連鎖」を断ち切る前提となる高校進学を保障する重要な制度として、県民生活の実態にみあうように県立高校授業料免除制度を改善していくのは県教育行政に課せられた大切な責務です。
■冷たい基準
現行制度の免除の基準について詳しくみていきます。県立高校授業料が全額免除になるための条件は@生活保護世帯(※)、A児童養護施設入居者であること。半額免除はB市町村民税非課税、C所得割がかからない世帯、D課税標準額が35万円未満の世帯、E災害や火災、F家計急変など。
Bとは母子家庭の場合であれば給与や児童扶養手当などの収入(総額)が年間約200万円程度以下の世帯が該当し、実際には生活保護を受けている世帯よりも厳しい実態がありますが、このような家庭でさえ全額ではなく半額免除。年間約6万円もの授業料を納めなくてはなりません。
高校通学にかかる費用はこれだけではありません。高額な制服や体操用ジャージ、教科書や辞書、PTA関係の諸会費やクラス費と称する模擬試験費用等が年間数万円、通学の広域化による高額な通学費・・・。これだけの負担が家計にのしかかります。せめて生活保護基準に準ずる世帯は、全額免除で救済するのが急務です。
また募集要項で全額または半額免除の対象になるとされているCの場合でも、就学児童が1人だけの場合(給与収入約220万円)にはまったく免除対象にならず、2人以上(270万円)が半額免除の対象になるという要項の趣旨にも反するような奇妙な運用が行われています。県教委高等学校課にその理由を聞くと「子どもが1人ならなんとかするのでは」。
留年した生徒は「学習意欲がない」とされ、制度の対象外。留年する生徒の事情はそれぞれで、背景に困難な経済状況があることも十分考えられますが、一律に切り捨てるような対応は温もりに欠けると言わなければなりません。
※2009年度から生保受給世帯の全免を廃止し、生保から支給される授業料相当額の給付に切り替えることになっている。(2009年3月29日 高知民報) |