2006年8月6日

連載 記者クラブを考える
Lブラック・ジャーナリズムへの対応

本来会見は開放されなければならないと思っている善意の記者の中にも、悪意をもって会見を妨害することを目的にしたブラック・ジャーナリズムが入り込んできた場合に困るので開放は難しいと考える記者は少なくありません。県政記者クラブとの議論の過程では、混乱して会見が成り立たなかった実例として、完全開放している長野県の知事会見で、オタク評論家の宅八郎が会見場に乗り込み騒いだ事例が示されました。

宅氏が、長野県の知事会見に乗り込んだのは2003年7月18日、8月7日。長野県の知事会見は、2001年の脱・記者クラブ宣言以降、すべての記録を映像・音声と文字でインターネットで閲覧できるので、会見の様子は誰でも見ることができます。7月18日の会見では知事の冒頭発言が終わり、信濃毎日新聞という地元紙と何度かやりとりの後、宅氏が「僕が誰だか分かるな」「てめえ、このやろう」と意味不明の謝罪要求を繰り返しました。宅氏と田中知事のやりとりに費やした時間は46分の会見のうちおよそ12分。8月7日は1時間6分の会見のうち16分が宅氏との無意味なやりとりに割かれました。

この会見の混乱について、長野県庁信州広報・ブランド室に問い合わせましたが、「宅さんが会見にきたことは確かにありましたが、特に混乱したとは考えていない。会見が開かれていることが大事ですから」とさして気にとめていない様子でした。

高知県で会見を開放した場合、妨害する目的で会見をぶちこわそうとするブラック・ジャーナリズムが、絶対に入ってこないとは言い切れません。この問題は、記者クラブ主催であれ、県主催であれ、会見の開放をすすめていくうえで、念頭に置かなければならないことは確かです。

記者会見を開放するのは、取材という共通の目的・意思があるメディアが対象になります。質問と称して大声で騒いで、会見をぶちこわす行為をくり返す者がいれば、主催者には、正常な会見ができるよう措置する責任があり、現実的には、知事会見は県庁内で行われることから、措置を実行するのは、庁舎管理または知事のセキュリティ面から県当局が対応することになります。

「県当局にメディアを選別をさせるのは危険」と言う人が必ずいますが、会見を原則的にオープンにした上で、明らかな妨害者を毅然として排除することは「選別」でもなんでもなく、会見を正常に成立させることにより国民の「知る権利」に応えるものです。「ひょっとすると妨害があるかもしれない」という仮定だけでは、会見を閉鎖し続けることへの説得力ある説明にはなっていません。

「高知民報」は、6月16日に県政記者クラブから知事会見への出席に関する回答(クラブ主催の会見への参加は認めないという内容)を得ましたが、この回答を踏まえて再度7月6日に会見開放の要求書を県政記者クラブに提出。7月25日に開かれた「知事と県政記者との懇談」(県政記者クラブと県の共催)には、暫定的にオブザーバー参加(発言権はない)が認められたため出席しました。