2007年4月29日

連載 高知市同和行政の今
21 同和教育の現状(3)

高知市立中学校で使用されている社会歴史教科書

それにしても学校内には部落差別に起因する課題は見あたらず、個々の教員にも、特段の思い入れもないにもかかわらず、なぜ学校は「同和教育」に固執するのでしょうか。その理由は、社会科の授業にありました。

高知市の公立中学校が現在使用している中学歴史は教育出版「中学社会歴史」。

この教科書には、@江戸時代の身分制度、A渋染一揆、B解放令、C全国水平社、D部落解放運動、E今日の人権課題の中で部落問題についての記述がありますが、この中で繰り返し「えた、ひにん」という賤称語が用いられています。

A中では2学年2学期に、江戸時代の身分制度についての授業を実施していますが、その直後から、生徒がおもしろ半分に賤称語をいいふらしたり、落書きするような状況が生まれたことから、前号で紹介した「教材」はその「フォロー」のために使われたものでした。

公立中2学年といえば、生徒指導上の問題が噴出する中学校生活の中でも最もデリケートで困難な時期。課題が山積する教室に不用意に賤称語を投げ込むことにより、学校の抱える困難に火に油を注ぐような状況になっています。

A中の2学年でも2学期になり、暴力事件やいじめが発生、授業にでず校内をウロウロ徘徊する生徒が増加して授業が成立しない状況が生まれている最中のことでした。

あるベテラン教員にこの実態を投げかけると「こんな教科書を選んだ人の責任を問いたい」。教科書の記述に引っ張られ、余計な困難を抱え込んでいる学校の実態が浮かび上がります。
 
難しい柔軟な対応

仮に授業で同和問題に触れるにしても、落ち着かないクラスや学年に賤称語を教えることは無神経に過ぎます。高知市教委のある幹部は個人的見解であると断りながら、「教室がざわついている状態で、核心を教えることはできないと思う」、中学校で社会科を教える40代の教員も「クラスや学年の状態をよくみて、落ち着かない状況であればまったく賤称語に触れず流す場合もある。生徒の実態を現場の教員がよく話し合うべきだ」など、同和教育、賤称語を使った教育は必要であると考える教員でも、機械的に教えることには批判的な意見を持っていました。

しかし、現場の社会科の教員が、教科書に記載されているものをカットしたり順番を変えるなどという臨機応変な対応をとることには困難があります。根本的な解決のためには教科書の記載の是正、とりわけ賤称語の記載をやめることが急務となっています。

高知市が採用している教育出版以外の教科書も(東京書籍、帝国書院)、部落問題の記述は似たようなもので大差ありませんが、教育出版は、今日の人権課題について「部落差別の撤廃は国や地方自治体の責務であり、国民の課題」と強調。同和対策事業により格差が改善し、特別措置法は失効したことに一言も触れない「偏向」ぶりは(他社は同和行政終結に一応触れている)突出しています。