2023年3月3日


県立高校で教育実習生にパワハラ PTSDで教師の道断念  高知県議会
 
 吉良富彦県議
3月1日、高知県議会2月定例会本会議で日本共産党の吉良富彦議員が行った代表質問の県立学校における教育実習生に対するパワーハラスメントに関する質問と執行部答弁の要旨を紹介します。

吉良議員 県立高校の教育実習中に、保健体育科指導教員及び体育教官室の教員によるひどいパワーハラスメント、いびり、いじめを受けたとの告発が実習生と家族からあった。当該教育実習は2021年10月11日から11月5日の4週間、実習生の母校である県立高校で実施された。大学3年生の実習生は実習後半以降、発熱、頭痛、腹痛、胃痛が続き、ストレスからくる症状と診断されPTSDで実習後2週間加療通院が続いた。大学にすぐ復帰できず、復帰後も担当の指導教員を思い出すと眠れない状態が続いたと訴えている。

実習期間中の勤務は午前8時25分から午後4時55分までと実習開始3日前の打合わせで説明されていたが実習初日、保健体育教科教員たちだけの教官室で「実習期間中は7時30分に来て掃除、そして、一番最後の先生が帰るまで残っておいて。俺は帰るけど」と超勤強要だけでなく本人は指導せずさっさと帰ることを指導担当教員にいわれ、強い違和感を抱くも、毎日朝7時30分から教員を含め全員が帰り戸締りするまで学校に残る日が続いた。

バトミントンラケットの持ち方の質問に即答できなかった途端、「こんな事も知らんがか、基本中の基本ぞ」、「大学で何を習いゆうが?だめ、だめだ」と2人の教員に囲まれ頭ごなしの強い口調の批判に心を折られ、初日から教官室で四面楚歌状況に陥らされた。事前に実習授業単元を聞いても直前まで示されず、1週間で11校時もの指導案の作成を課すなど極めて過大な作業を課している。前日「それでいい」と言われた指導案が翌日「全然だめ、やり直し」と理由もなく突き返され、指導を仰いでも「自分で考えろ」。指導案をチェックせず帰るので印刷できず、提出期日に間に合わない状況が作られる。

授業後の話し合いの場で「生徒への対応とか勤務時間も時間内に来て、5をもらえるかもしれんけど指導者への態度、提出物の遅さとか1とか2。教育実習の単位なかったら卒業できんがか?これ単位ないぞ」と言いながら、教育実習成績評価表を見せ、「ほんまは実習生に見せんけど、単位なさそうやき見せるわ」、「実習目標が中学生よりひどい、実習で学んだことの所もただの感想や」といたぶられ、あまりのことに「すべてが感想ではないです。言っていただいたことを書いてる個所もあります」と反論すると、「だから、そういうのを直せ!すみませんやろうが!」、「はいって言えや!」と威圧的・感情的にどなっている。

教員になり、生徒と陸上をする夢に一歩近づく場となるはずが、4週間も理不尽で威圧的な言動の真只中に置かれ、精神的苦痛から教員への夢を断念させられる場となってしまった。

喝入れ

吉良議員 実習後も治療が続く実習生の状態に心を痛めた家族は、翌22年1月7日、実習校を訪れ事実を明らかにし、実習成績を正当に評価しなおすよう申し入れた。 

副校長は記録メモにみられる指導教員による数々の発言に対し「実習生に対する体育(科教員)の厳しさは感じるところがある。正直、保護者からも、あまりのことやないか、聞いてくれって言われた事が1回や2回やない。学生が涙流してきたことがあって慰めた事がある」とパワハラが常態化していたことを認めている。 1月13日、副校長は電話で「昨日担当指導教員を呼んで校長を交え話をした。実習生が記録したメモにあるような形で指導し精神的に追い込まれている。かなり強く叱責し、メモにある通り単位が出せんとか言っているので、それは間違いだったということは本人も反省しているし、反省させた」と述べている。

1月17日に面会した校長は「やはり行き過ぎた発言であり、不適切な発言であったと私も思っている」、「喝入れがあったことは間違いない」、「社会通念からしたら理不尽と思うような非常に厳しい指導が伝統的に今まであって(実習生に対し、これもあれも)できない、できないと(否定する)指導ばかりやった」、「体育教官室と職員室とでは違う文化がある」、「パワハラについては全教員に周知する」、「人生を棒に振るような理不尽な言葉で、人の進路、人生まで変えてしまうような行き過ぎた発言があっちゅうぞと。ずっとそれを背負うつもりでやれと(指導担当教員を)指導する。県教委にも報告する」とパワハラを確認し、担当教員だけでなく教官室の教員も含めた指導を明言している。

1月19日、その判断の下、校長は県教委高等学校課への報告に臨んだが、しばらくしても県教委に報告した結果の話が校長からなく、しびれを切らした家族の要請に応じて3週間後の2月7日、やっともたれた場で校長から「校長がパワハラを判断するものではないと県教委にいわれた」、「本人の話を聞くことができず、記録を見せてもらえない状況で事実確認ができない」との判断が示されたと思いもよらない言葉を聞いた。成績評価についても「教育実習での成績は客観的な事実に基づいて評価しているものであって、校長の考え一つで変えるというのはあってはならないと(県教委に)言われた」と述べている。

パワハラがあったことを全教員に周知し、不当な成績評価も見直すという校長の姿勢は県教委に報告したことで豹変した。家族は何を信じていいのか、青天の霹靂の心情であったことは容易に推察できる。家族は学校と県教委が組織ぐるみでパワハラの事実を隠ぺいする方向へ舵を切ったのではないか、我が子の人生を変えてしまった仕打ちは、なかったことにされるのではないかと、私どもへの相談となった。

指導教員は既に退職

吉良議員 2020年6月「パワハラ防止法」が施行され迅速かつ適切な対応、事実確認、事後対応を講じることが義務付けられたが、PTSDに苦しみ、教職への夢を断たれた実習生の報告を受けても、本人や家族に連絡をとることすらせず、現場校長とともに迅速で適切な対応を取ろうとしなかった県教委高等学校課の姿勢は許されるものではない。

22年3月16日、家族が伊藤博明教育長(当時)に調査を求めた5日後、3月21日から実習生への聞き取り、関係教員への聴取にかかるが10日後、当該指導担当教員は退職し、県教委の管理下からの身分は消えてしまった。学校から報告を受けて2カ月、当事者の聞き取りもせず、放置したことをどう考えるか。

3月29日、聞き取り内容の記述が家族に示されたが、実習生に対する言動への判定は公にされないまま、4月15日の県立学校長会議、事務長会議で「教育実習実施にあたっての留意点」という通知が示されているが、通知に至った経過は報告されておらず、校長の監督不行届きへの対応も明らかにしていない。県教委の調査と認定結果に実習生と家族は納得していない。不服申し立ての権利をどう保証するのか大きな課題だ。
 
 長岡幹泰教育長

長岡幹泰県教育長 ハラスメントが疑われる事案について報告を受けた際の県教育委員会の対応について令和4年1月19日に校長より報告を受けた。校長に当事者双方及び関係者への調査を実施し、事実関係を確認するよう指示した。学校は、関係教員に言動や見聞きした内容を聞き取っているが、実習生に直接会う事ができず、発言内容の整合性を確認できていない。このため「現時点ではハラスメントと認定するまでには至らず、その旨を家族にも伝えた」との報告を受けた。その後、3月中旬まで家族から学校、県教委に相談等はなかったが、学校は関係教員等に対し事実関係を確認するなどの調査を行った。県教委は本事案を重く受け止め、校長から一報を受けて以降、3月中旬までの間、学校に事実確認を指示するなど必要な対応は一定行っていた。

令和4年4月の通知は、教育実習生に対するハラスメントが疑われる事案が発生したことを踏まえ教育実習前に注意喚起するためのもので、この時点で本事案の事実認定をして発出したものではない。令和4年3月に改めて教育実習生側から要請を受け、県教委で再調査を開始した。実習生や関係者への聞き取りを重ね私をはじめ事務局で協議した結果、指導担当教員にハラスメントにあたる言動が一部あったことを確認した。当該教員はすでに退職しており指導や処分は実施していない。他の関係教員の実習期間中の言動等については不適切な指導には該当しない。校長は一定の対応を検討している。

吉良議員 「パワハラが疑われる事案」と言った。メモ、録音も聞いた結果が「疑われる事案」というところに、本人も家族も不服がある。教育実習を受けることで人生を曲げられた。パワハラがあったと断定しなければ示しがつかない。本県の教育に携わりたいという人達は、この事件を注目している。どういう措置がなされるのか。本人が身の危険を感じて録音していた音声も残っている。それでも「疑い」か。こんなことを言ってもパワハラにならないのか。容認できない。再審査すべきだ。4週間、何時間勤務させられたのか調べたのか。今問われているのは実態にきちんと向き合うことだ。

長岡教育長 「疑われる」というのは当初段階。指導教員の行動にハラスメントがあったと認定している。当初は発言に食い違いがあり、双方の言い分の一致点をみることができなかったことから「疑われる」とした。実習生から資料やデータをもらい再調査した結果、ハラスメントがあったと認定した。勤務時間は調査できていない。再調査する。

吉良議員 パワハラがあったと事実認定をしたことを本人に伝えたのか。伝えていない。家族は知らない。その体質が問題だ。なっていない。今、元実習生は幸いなことに元気に学んでいるが、教員になる気持ちにはなっていない。本県の教員をめざす方に、今後こういう思いをさせないためにも、きちとんとした手立てを求めたい。

長岡教育長 結果として実習生が教員となることを諦めたことについて非常に私としても残念、重く受けとめる。こういったことを繰り返してはならない。(高知民報2023年3月3日)