2022年4月26日

  Is値0.23 二重基準でいいのか   
 
眼下に絶景が広がる五台山の展望施設(現在利用可)、空中に飛び出す突端部の強度は未調査という
高知県土木部は2023年春からNHKで放映される牧野富太郎をモデルにした「らんまん」の効果で、牧野植物園がある五台山への観光客増が見込まれるとして、耐震強度を満たさず解体が決まっていた展望施設を「おもてなしサービス」に活用する方針を4月19日、県議会産業振興土木委員会で明らかにした。この方針をめぐっては、議会側から「耐震が不足している施設を、もてなしに使うのはおかしい」、「想定外を想定しなければならない高知県としてそれでいいのか」という疑問が出ている。当然だろう。

県土木部公園下水道課への取材によると、施設の耐震強度を数値的に表すIs値は倒壊の「危険性が高い」に分類される0・23。23年度から解体工事に入る予定だったが、ドラマ放映中のを避け「おもてなし」に活用するためドラマ終了後に延期。①施設内部はレストラン等としては使わず、内部に人がとどまらないようにする、②既存の出入り口は狭いため、地震速報等があった時に速やかに避難できるよう外付階段を設置するとのことだった。

かつてのロープウェー駅、今は県に移管された同施設は築53年。老朽化が、かなり進んでいるが、屋上からの展望は素晴らしく、高知市街を見下ろす絶好のビュースポット。観光に活用したいという気持ちはよく分かる。だが、施設を使い県事業として「おもてなし」を取り組むのであれば、利用者の安全が担保されているものでなければならないのは当然だ。

今回の土木部の説明で、どうにも不可解なのは、安全を担保する方策が極めて薄弱なままで話を進めようとしていること。施設の危険度についての十分な説明もされていない。19日の産振土木委では「壊れることはないのか」という委員の質問に対し、「100%ないとはいえない」という答弁だった。Is値0・23、「倒壊の危険性が高い」と判定されている事実が十分共有されているとは言い難い。

この施設を、県事業として観光に生かしていくのであれば、耐震性を向上させる手立てを講じたいので、その予算を認めてくれというべきで、それであれば筋は通る。だが、すぐに解体する建物に金は入れたくないが、観光には使いたいというので話がおかしくなる。

土木部側から出てくる「安全策」は、屋上にガードマンを配置するなど、表面的なもので建物の倒壊リスクとは無関係。納得できる説明はない。耐震診断結果を軽く見るような発想は、技術畑の現場から出てきたものとは思えない。どうにも不可解である。この方針決定に行政を歪める「天の声」の影響があるなどということは、まさかないだろうが、そうであるなら、なおのこと利用者の安全について納得する説明が求められる。

本事業に関連する予算は6月議会に提出される予定で、県議会としても判断を迫られることになる。各議員の受け止めにはかなり温度差があるが、高知県政にとり南海トラフ大震災への備えは最も重要な課題である。肝心の県庁内部で震災対策が二重基準(ダブルスタンダード)になってしまっているというメッセージが、県民に伝わるようなことがあってはならない。(N)
(2022年4月26日 高知民報)