2020年9月20日

鏡川上流に石灰鉱山計画 吉原川右岸で300年採掘 四国鉱発
鏡石灰鉱山計画地を国見山上空から望む。正面・敷ノ山の左斜面が大きく削られることになる。左の谷が吉原川
高知市を流れる鏡川。市民の重要な水源、幾多の文化と歴史を育んできた市民の宝です。この鏡川の支流でダムを経ない貴重な清流として知られる吉原川に沿う鏡吉原地区に、石灰石の鉱山を開発する計画が急ピッチで進んでいます。

高知市は鏡川清流保全条例を1989年に制定。鏡川の清流保全は市政の重要な柱ですが、吉原川沿いの鉱山開発が現実のものになれば環境に与える影響は甚大です。石灰鉱山を計画しているのは、南国市白木谷で石灰採掘事業に取り組んでいる四国鉱発株式会社(入交章二代表取締社長)。同社は「高知県には良質な石灰石が採れる鉱脈がある。白木谷鉱山はあと数十年で採ることができなくなるので、鏡吉原で次の事業の準備をすすめている」(三浦直照同業務部次長)。8月19日には旧鏡村地域の区長を対象にして「鏡地区における石灰採掘事業の概要」を説明しました。
 
鏡鉱山の計画地(国土地理院地形図を加工) 

その時の説明によると計画されている石灰鉱山の概要は以下のようなものでした。

採掘場所 高知市鏡吉原   
鉱業権者 入交グループ本社、四国鉱発  
可採鉱量 2億トン(うち今回の一次開発分が3600万トン)
出荷規模 40万トンから60万トン毎年  
出鉱開始 2025年  準備工事 鏡地区、その他の関係者に説明および許認可後(2020年度内の許可を目標)
採掘期間 300年以上

22dダンプが1日120回通過 4分に1台

今回の第一開発予定地は吉原川右岸で、敷ノ山(739メートル)の北東斜面にあたり、急峻なV字谷に巨大な石灰岩の塊が迫っています。採掘範囲は標高630から300メートル地点、東西450メートル×南北450メートル、面積は168000平方メートル。  

採掘方法は露天掘りで、発破による階段式採掘。計画地の森林は伐採され、山腹を大きくL字型に削りながら石灰石を採りながら地盤を堀り下げていきます。鉱山内の切羽の排水は地下への自然浸透式で、吉原川に流れ出すことはないとしていますが、山を削った断面がむき出しになり、渓谷沿いの景観や雰囲気は一変します。

周辺住民にとって影響が大きいのは石灰石のダンプカーによる運搬ですが、1日あたり1300トンから1440トン(年間約40万トン)の搬出を予定しており、1日に22トンダンプ(積載量11トン)が120回吉原川沿いを通過する計算になります。  運搬時間を9時から17時(8時間)と仮定すると(白木谷鉱山では7時から17時)、22トンダンプが4分に1台、吉原川沿いから高知市塚ノ原方面へ長期間にわたって通行。静かな清流とホタルとともにある吉原川の環境は激変します(原則休みは日曜日だけ)。

今回の計画の最大の障害は運搬路で、予定している県道6号線(高知伊予三島線)の吉原川沿いには幅員の狭い未整備区間が多く残されており、県道が現状のままでは「今回の計画は成りたたない」(四国鉱発関係者)。四国鉱発が区長会に示した説明書にも「事業の前提=県道6号線の拡幅」と記されています。

しかし、県道路課によると今後の県道6号線の整備計画は、「高知県の方針である1・5車線化を段階的にすすめていくことになっている」とチグハグさが否めません。四国鉱発は現在、運搬路の見通しがないまま、許可申請のための書類を準備。計画地の森林伐採許可を県から得るための事前審査に入っており、早急に「地元同意」を取り付け、2020年度内に四国経済産業局の開発許可を得ることを目指すなど、動きが急ピッチで、見切り発車的な手法をとっています。

石灰が高知県にとり重要な資源であることは間違いありませんが、一方でこの鉱山が実現すれば、清流保全条例を制定し保全すべきエリアとして位置付けてきた貴重な吉原川・鏡川の自然環境や住民の生活が将来にわたって不可逆的に大きく変わります。

高知市民と鏡川のあり方に深く関わる「百年の計」であり、拙速に許可を得ようとする手法は避け、「地元同意」はもちろんのこと、市民的な納得を得られる十分な議論が求められます。

県道改良へ見切り発車 「県の姿勢を変えさせる」 コンベヤー搬出は検討せず 

 
未改良区間が多く残る県道6号線の現状(高知市鏡吉原地区) 

鏡吉原地区の石灰鉱山計画が現実化するかどうかの核心の一つが運搬路=県道6号線(高知伊予三島線)の改良。大型の22トンダンプが常時通行するには、7から8メートルの道路幅員が必要になりますが、「以前から鉱山開発のために、県道の改良をお願いしているが県が動かない」と四国鉱発関係者は不満を隠しません。

通常は運搬路の見通しがなければ、開発許可申請をだすことにはなりませんが今回、四国鉱発は運搬路の目処がついていない中で、開発許可を先行させるという異例ともいえる強引な手法を取っています。

「ニワトリが先か卵が先かではないが、道が先か鉱山が先か。四国鉱発としての本気度を示し、県道の改良へ県の姿勢を変えさせる」(四国鉱発関係者)。見切り発車で鉱山の計画を動かすことで、県にプレッシャーをかける狙いがあります。

県道を使わずベルトコンベアーで搬出する手法については「小浜地区までのコンベアーの経費の試算が52億円。初期投資がかかりすぎる。事業としてなりたたない」と選択肢にしない構え。

一方、高知市政では四国鉱発による鏡吉原地区への石灰鉱山開発が、「政治案件」化しつつあります。2015年、12月高知市議会で当時の新風クラブの中沢はま子議員が「鏡地区の石灰鉱床」を名指し、鉱山開発推進を岡崎誠也市長に求め、市長は南海トラフ地震で地盤沈下した土地を埋め戻すための土砂確保を理由に意欲を示しました。

また、地元吉原地区出身の川村貞夫議員(新こうち未来)は、県道6号線の改良をすすめる方策として鉱山開発に積極的な立場で、「県の産業振興計画に鏡地域の石灰鉱山を加えさせることで、県道改良を実現させていくしかない。道が広がれば木材搬出にも使える」と話します。今後、県議会等でも産業振興計画や県道6号線の改良をめぐる攻防が活発化することも考えられ、注視していく必要があります。(2020年9月20日 高知民報)