2015年11月29日

コラムアンテナ 「欠落したプルサーマルの視点」
 
伊方再稼働を「やむなし」とコメントする尾ア知事(10月26日14時35分)

来年春にも再稼働される見込みが強まった四国電力・伊方原発3号機。10月26日に愛媛県知事が再稼働を了承したことに続き、尾ア正直・高知県知事も再稼働を認めるコメントをした。

尾ア知事は同日の会見で、高知県と四電の「勉強会」で受けた安全性と電力需要と供給能力から再稼働が必要性だとの説明には合理性があり、「やむをえない」と述べた。だが、そこにはぽっかり空いた穴、抜け落ちた論点がある。

再稼働されるという伊方3号機は、ウラン燃料を燃やす通常の原発ではない。

通常燃料用に設計された原子炉で、通常原発から出た使用済み燃料を再処理して取り出したプルトニウムを用いたMOX燃料と高燃焼ウラン燃料「ステップ2」を、組み合わせて発電する他に例のない特殊なプルサーマル運転によるハイリスクな原子力発電なのである。

この「伊方方式」によるプルサーマルは2010年3月30日に開始、翌年東日本大震災発災後の4月29日に運転停止して以後は今日まで稼働していない。運転実績はわずか13カ月。「初心者マーク」が取れたばかりだ。

プルサーマルには原発事故で最も怖い原子炉の暴走=メルトダウンを防ぐ制御が効きにくいという重大な弱点がある。

2014年2月13日の「勉強会」で四電広報グループリーダー・奥田昌三氏は「MOX燃料とウラン燃料では制御棒の効きが違う。MOX燃料は中性子が少ないので制御棒があまり効かない。通常運転中はホウ酸の濃度で出力を調整している」と答えた。

ブレーキが効かないのである。

だが「再稼働やむなし」とした知事の発言は、一言もプルサーマルについて触れておらず、プルサーマルによる再稼働の必要性について説明はない。

どうしても再稼働が必要ならば、どうして他に例がなく、運転実績の乏しい方式で再稼働するのか。ハイリスクな特殊運転ではなく、通常ウラン燃料による発電ではだめなのか。尾ア知事は県民に説明する責任がある。

プルサーマル発電にはこの他、無視できない問題点が少なくない。

使用済みMOX燃料は通常の使用済み核燃料より、発熱量強く扱いが難しく、法的にどこにも持って行く先はなく、伊方発電所内に置く他はない。電力料金高騰が心配なら高額なMOX燃料を使う理由はどこにあるのか。

高浜原発もプルサーマル再稼働が申請されているが、地裁決定で見通しは不透明であり、伊方3号機が初のプルサーマル再稼働になる可能性は濃厚だ。

四電のプルサーマルへの固執をみる時、本気で電力需要や電気料金のことを心配しているのではない本音が透ける。本当に電力が心配なら、相対的にリスクが低く、「低費用」の通常運転をさせてくれというだろう。「もんじゅ」破綻で使い道のないプルトニウムの消費が本当の狙いだろう。

その後の「勉強会」では、「プルサーマルについてはほとんど議論になっていない」(山下修・県新エネルギー推進課長)という。今からでも遅くない。プルサーマルによる再稼働の必要性について、徹底した議論が必要だ。(N)(2015年11月29日 高知民報)