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岡田健一郎・高知大准教授 |
高知県内大学関係者による「安保法案に反対する高知の大学人声明」事務局として、中心的な役割を果たしてきた憲法学を専門とする岡田健一郎・高知大学准教授(35)に、安保法案成立後の展望を聞きました。
―安保関連法案が参議院で採決されました。
岡田 形式だけみると法案は通ってしまった。非常に悔しく、残念なことです。しかし、国会の最終盤、野党は激しく抵抗しました。国会外の集会やデモの積み重ねがなければ、野党はあそこまでの行動できなかったでしょう。
維新の党は自民党より右翼的な政党で、民主党も一枚岩ではなかった。その彼らを安保法案に関しては一点で協力し、抵抗させるところまで追い詰めたのは全国の人たちが声を上げたから。そこはきちんと認識しておくべきだろうと思います。
憲法学では「表現の自由が大事」ということを言いますが、一方で憲法学者や裁判官が「表現の自由が、民主主義にとって本当に意味がある」ということを疑問に思っていた部分もありました。
今回の安保法案をめぐって国会外の普通の人々のデモや集会の声が野党議員を動かし、「市民がこんなに頑張っているなら、私たちも頑張らなくては」と思わせた。デモや集会で法律を直接作ることはできなくても、政治に影響を与え、動かしていく力があることを学びました。
―これからの運動の方向について、どう考えますか。
岡田 これでゲームセットではない。まだまだ「試合」は続いていきます。仮に今回の安保法案が廃案になっていたとしても、このような法律を作ろうとしたり、憲法を改定する動きはこれからも出てくるでしょう。
他方で安保法案が通っても、それで終わりではない。南スーダンPKOで駆けつけ警護をやるという話が出てきていますが、いかに安保法を使わせないか、使わせにくくするか。
勝ち負けとか、0か100ではなくて、法案は通ってしまいましたが、政府が簡単に自衛隊を出せるかといえば、かなりダメージを与えました。ひどいことをして自衛隊を派遣したら、また国会を囲まれると嫌だと政府与党をビビらせることが大事です。野党が次期参院選などの国政選挙で戦争法反対の一致点で選挙協力するよう求めていく運動も重要になります。
―憲法学者として今回の運動の持つ意味をどうお考えでしょうか。
岡田 安保法案の採決後に国会前で「憲法奪還」というコールをやっていました。憲法というのは紙に書かれていれば自分たちのものかというと、そうではありません。
自分たちのものとして理解し、使おうとすることによって、はじめて自分たちの憲法になる。私たちは、もう一度憲法を自分にものにしようとするプロセスの中に今いるのではないでしょうか。
60年安保闘争では条約は通りましたが、岸首相は退陣せざるを得ず、その後の首相は「私の内閣では憲法改正はしません」と言わなくてはならなかった。自衛隊と日米安保を専守防衛という、狭い枠に何十年も閉じ込めさせてきました。
これは非常に厳しいたたかいではあるけれども、あきらめずにバトンをつないでくれた人、集会やデモを続けてきてくれた人がいたからこそ、政府に憲法を「押し付け」ることができた。今、そのバトンを私たちの世代が受け取り、子どもや孫の代につなげていくことが大事になっています。(2015年10月4日 高知民報) |