セウォル号事故で我が子を亡くしたダンウォン高校生遺族と話すと、あきらめきれない無念さが伝わってくる。
その背後には船体が転覆してから水没まで約1時間もあったのに船長から避難指示が発せられず、部屋で待機せよというアナウンスが繰り返されたため、多くの生徒が逃げ遅れたことがある。
転覆直後、まだ船室に海水が入ってきていない時に友人と無邪気にはしゃぐ姿をスマートフォンで撮影した動画がメディアで公開されたことから、見た人も多いだろうと思う。だが、やがて船室にどんどん水が入り、出口をふさがれた多くの生徒達は逃げ場を失う。
5月2日、ソウル仁寺洞近くで、連載Fで紹介したダンウォン高校2年4組、チェ・ソンフォの母親オム・ソンヨン(39歳、写真下)を取材していた時に、ソンヨンがおもむろに自分のスマホを取り出して、懸命に何かを見せようとするので、画面をのぞき込むとそこにツイッターの画面があった(写真上)。
もしやと思い確認すると、船内に取り残された息子の最期の書き込みだと言う。沈みつつある船にとり残された息子からの書き込み。居たたまれない思いで、しばらくソンヨンの顔を見ることができなかった。
見せてもらった画面からは、以下のような文字が読み取れた。「助けて」、「沈没するかな・・・」、「今(船に)乗っている」
最後のメッセージは4月16日午前10時7分、「心配しないで」だったという。
事故発生は午前8時52分頃。それから船体が沈むまでT時間以上あり、ソンフォからのツイッターも10時7分まで機能していた。
適切な避難指示があれば、死ぬことはなかったのではないかという気持ちを持つのは親として当たり前だ。
乗客を放り出して逃亡した船長や船会社の責任、さらには海洋警察の初動のまずさ、ずさんな安全管理体制とそれを許してきた韓国政治と社会の根本的なあり方にまで遺族の眼は向けられている。(写真と文=中田宏)(2015年8月2日 高知民報) |