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大統領令撤回を求めて座り込むキム・ソンシル(左)とイム・キョンピン(右)
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日本語が分かるということで紹介されたキム・ソンシル(50)だが、実際には少し話せるという程度で、こちらのたどたどしいハングルと英語を交え、さらに持参した電子辞書とスマホの翻訳ソフトを駆使した懸命のやりとりになる。
ソンシルは豪快・快活なタイプの女性。黄色のジャケットは着ていなかったので、てっきり遺族をサポートするボランティアだろうと接していたのだが、話をしていく中で「17歳で亡くなった息子ドンヒョクの母だ」と言われて言葉を失った。よく見ると、彼女が被るキャップの下は坊主頭だ。韓国政府に抗議するために頭を剃った52人の遺族の1人だと言う。
彼女たち遺族が、強く求めているのは、事故特別調査委員会の構成を具体化する大統領令の撤回。この大統領令には責任を追及される側の政府関係者などが多く入っており、「これでは公正な真相解明ができない。特調委をカカシにするものだ」と廃棄を強く求めているのだが、現状では政権側は、わずかな修正しか応じる気配を見せないまま時間が過ぎており、事故から1年以上が経った今も、特別調査委が動き出す目処は立っていない。
パク・クネ大統領は事故1周年の今年4月16日午前、沈没現場に近い珍島を追悼に訪れたものの、午後からはそそくさと外遊に飛び立った。
このような大統領の行動は遺族の感情を逆撫。失望と怒りが広がり、珍島での慰霊を拒まれ罵声が飛んだ。この日を前後してソウルの大統領官邸付近では、大統領との面談を求める遺族らに警官隊が放水し、拘束することが頻発している。
このような絶望的で緊迫した状況下でキム・ソンシルは気丈に取材に応えてくれた。その心中を思うと胸が締め付けられるが、取材が終わる頃に、ソンシルが自分の腕にしていた「REMEMBER 0416」と刻まれた黄色いリストバンドを、脇でやりとりを聞いていた彼女と仲の良さそうな母親イム・キョンピンが黄色いリボンを形取ったピンバッチを私に着けてくれた。(写真と文=中田宏) (2015年5月31日 高知民報) |