2015年5月3日

コラムアンテナ「動き出した総合教育会議」
 
田村教育長の発言を聞く尾ア知事(4月23日、高知共済会館)
「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」改正法により設置が新年度から義務付られた「総合教育会議」が全国の自治体で始動。この高知県版である高知県総合教育会議第1回の会合が4月23日、高知市内で尾ア正直・県知事、小島一久・県教育委員長、田村壮児・県教育長(※)など6人の教育委員が出席し開かれた。

同会議は知事が招集する常設会議で、知事の任期と同調させ県教育行政の方向性を定める「教育行政大綱」策定、教育条件整備、児童生徒の生命・身体の保護に関わる緊急の措置について「協議・調整」することが任務であり、中でも主たる役割は大綱の策定である。

この日の会議では県教育の全体的な課題について教委事務局が報告。知事と教育委員が意見交換し、来年3月の大綱策定へのスケジュールを確認したが、会議を取り仕切ったのは知事部局総務部政策企画課、議事進行は梶元伸・総務部長が務めるなど、全体として知事が主、教委が従という関係性は濃厚だった。

冒頭、尾ア知事が大綱を定めるにあたっての議論の方向性について「本県の子どもの状況など教育の現状や課題を率直に受け止め、より深掘りし、解決に向けた有効な対策を打ち出す」ものにすると提示。

教育委員からは、高知県の教育の困難の背景にある経済的な問題、教育委員会だけでは解決できない地域社会や家庭の状況を知事と情報を共有することで対策を打ち出せるのではないかと期待する声があがった。

これを受けた知事は困難の背景に高知県の置かれた経済的な厳しさ、家庭の実態があることには同意しながら、「これで終わっていては進展はない。まだまだ改善すべき点はある」と持論を展開した。

この会議は平成27年度内に大綱を仕上げることを念頭に置き、月1回程度会議を開いて現場教員や有識者の声を聞くとしているが、否応なく11月の知事選挙をはじめとする政治的なスケジュールが大綱策定と密接に絡んでくる。やはりそこには違和感を覚える。

もちろん、この制度は法に基づくもので、地方自治体に選択の余地はない。また尾ア知事も、教委の自主性を一定尊重しなければならないことは理解して自制を持って会議に臨んでいる印象は受ける。

新制度になったからといって高知県で知事による過度な教育介入が直ちに発生するとは考えにくいが、それでも政治家である首長が、予算編成権に加え、教育方針まで実質的に定める権限を手にするシステムが完成したことで、やがてその仕組みが独り歩きしていくのではないかとの懸念は頭から離れない。

将来、教育に過度に政治的に嘴をはさむタイプの首長が出たり、規模の小さい町村などでは、これまでは建前上であれ存在していた教育委員会の独立性、政治的中立性が形骸化する恐れは十分あり、教育委員会の首長の下請機関化、主従の関係に陥る危険性を孕む。教委の独立性、政治的中立性を考えていく上では、エポックとなる重要な分岐点である。

これまでの高知県教育の大方針であり、外部委員も交えた長期の議論で策定した教育振興基本計画も、その役割が大綱に取って代わられていく気配も濃厚だ。

その一方で、県教委には欠落しがちな、過疎地の実態把握や、福祉的な観点は、知事側がより問題意識が明瞭であることも多く、これまでとは違う観点での議論が大綱策定の過程ですすむ可能性もある。

ともあれ新しい制度が始まった以上、制度にのっとった取り組みが当面は進んでいくことになる。関係者には現場重視、児童生徒の立場からの実りある議論を期待したいし、県民的に更に議論の行方を注視していく必要性を痛感する。(N)

 ※田村教育長は28年3月31日まで経過措置として教育委員・教育長としてとどまる。4月1日以降は知事が新教育長を任命する(任期3年)。(2015年5月3日 高知民報)