2015年2月22日

オピニオン 「農協改革」の真実  田中全
今、国会で農協改革が盛んに議論され、関係法案が提出されようとしている。私は長年、農協組織の一員(農林中央金庫)として仕事をしてきた。これまでも農協組織はいろんな組織改編・改革をおこない、私も直接間接に関わってきたので、今回の議論の特徴と問題点を指摘したい。

まず、今回の議論の発端は農協側から提起されたものではなく、政府側から一方的に出てきたものであるということ。特に官邸(安倍首相)の意向が強く反映している。

その最大の理由はTPPである。今、アメリカとのTPP交渉は難航。アメリカの姿勢は強硬で、このままでは日本側がコメなど主要農産物の関税大幅引き下げなどの譲歩をしない限りは、合意はむずかしい。

しかし、農協は一貫してTPPに反対している。妥協合意をすれば農協の反発が大きいため、この農協の抵抗の力を削ぎ、農協組織を弱体化させねばならない。これが本音である。

農協攻撃のターゲットは全中(全国農協中央会)の監査機能に向けられている。全中は農協組織の中枢機構であり、農協法にもとづいた指導・監査業務を行なっている。

政府の言い分は、この指導監査は個別農協を締め付け、自由な事業展開を制約するものであるから、一般の公認会計士らに監査を受けさせるように変えるべきというもの。

農協は協同組合である。協同組合の基本原則は「一人は万人のために、万人は一人のために」。農家一人一人の力は弱いものだが、組合をつくり組合員となって、力を合わせることによって助けあう。相互扶助によって力を強くする。個別農協だけの力は弱いので、販売購買、信用、共済、厚生などの事業ごとに都道県レベルで連合会をつくり、さらに全国連合会をつくることによって、全国統一組織としている。

政府(官邸)の狙いは、この農協組織を、個別農協の自主性尊重という名目のもとに分断しようというものである。

では、個別農協がそれを望んでいるのか。そんなことは聞いたことがない。農協は全国ネッワークを持つこと強みを発揮しているのだから。

全中による監査は農協法にもとづく国家資格である。農協の業務は組合員の生活全般にわたって責任を持つという目的から、販売購買、信用、共済など事業が多岐にわたっており複雑だ。それぞれが農協法にもとづいて適正に行われているかをチェックし、指導するには、豊富な専門知識と経験が必要になる。一般の公認会計士ではとても対応できないものである。

仮に公認会計士に任せるとすると、膨大な時間と費用がかかる。このため、農協からも公認会計士による監査を希望する声はない。

現場農協からの要求も希望もないのに、政府がこれに固執するのは、ただ一つ、全中の指導力を削ぎたいから。つまり、TPPへの妥協合意後の農協の反発を抑えたいからである。

個別農協の多角的な事業展開については、民間事業との競合を招いている実態等があることから、国民や市民、また組合員の中にもいまの農協に対して批判があることを私も知っている。

しかし、そうした人たちにもよく考えてほしい。今回の「農協改革」は、そうした声を逆手にとってTPP合意による、日本農業の海外への売り渡しをたくらんでいるものであるということを。このままでは、安全な食糧も、国民の安心も、失われていくことを。(たなか・ぜん、元四万十市長)(2015年2月22日 高知民報)