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講演する金美齢氏(かるぽーと、7月30日) |
高知市教育委員会らが主催する「第64回高知市夏季大学」で評論家・金美齢氏(80)が7月30日、「アジアの中の日本」と題して講演した。金氏は都議会セクハラヤジ事件でヤジられた側の女性都議を攻撃し、「ヤジった自民都議も傷ついた」、40人が死亡した2011年の中国の新幹線事故について「幸か不幸か事故を起こした」など暴言を連発。「市民の文化教養の向上」という夏季大学の目的とはかけ離れた内容だった。
金氏は台湾出身(現在は日本国籍を取得)でテレビ討論や右派メディアに登場し、歯に衣着せぬ口調で、公然とは言えないタカ派の「本音」の代弁を売り物にしている人物である。
金氏は「日本は世界一暮らしやすい。領土は世界60位で小さくない、排他的経済水域は世界6位だ」などと繰り返し、いかに日本が「大国」で「一等国」であり「恵まれているか」を最大限強調。このことに自信と感謝の気持ちを持ち、政治を批判するのではなく現状肯定を求めた。
加えて金氏は世界一の農業技術を持つ日本が世界に出て「攻めの農業」をしなければとTPPをプッシュ。「今、日本に必要なのは安倍晋三だ」と声を大にするなど、さながら自民党演説会のような様相を呈した。
ここまでであれば、いささか政治的偏向が過ぎるが、講師の考え方の範囲かもしれないが、金氏が日本の「優秀」さを強調するために持ち出す発言は、他者を貶めるばかりで、あまりに独善で品性を欠き看過できない。
金氏は日本の優秀さを強調するために中国の新幹線を対比させたが、2011年に中国浙江省で40人が死亡した重大事故について「幸か不幸か事故を起こして下さいました」と嘲笑した。金氏の極右的な政治スタンスは承知していたが、これほどの人間性の退廃には言葉を失う。
この中国の事故で少なくない高知県民は1988年の上海高知学芸高校の事故を想起したはずだ。事故の報に接し、とても他人事とは思えず、安全運行を二の次にする中国当局の体質に憤りすらすれ、40人の犠牲者を出す大惨事に「幸か不幸か」などという言葉が出るはずがない。悲惨な大事故を笑い物にする金氏の言葉には背筋に悪寒が走るような感覚を覚えた。
さらに「日本の鉄道は世界一正確で安全だが、JR北海道に問題はある。あれはどこも引き取り手のない者を全部北海道にやったから」。
JR北海道で相次いだ深刻な事故の背景に、国鉄分割民営による独自採算・利潤追求体質が蔓延し車体やレールの保守・安全対策がおろそかにされてきた経営体質があることは論を待たないが、金氏は現場労働者に責任を押し付けて侮辱する。
都議会のヤジについては「ヤジを言われたほうが被害者ぶるのは間違い。みんな傷ついた。メディアの作った構図のせいだ。野次った本人も都議会も、日本もセクハラをする国と世界に思われて評判を落とした。女性都議も週刊誌に過去を書かれて傷ついたが、あの原稿棒読みには私も野次りたくなった」。
何のことはない。報道が悪い、(女性都議が)それくらいのことを言うほうが悪いと言い、ヤジった当人である自民党都議を結局は擁護。表だっては誰も言えない「本音」の代弁者として、安倍政権は正しく、「一等国・日本」と異なる価値観の他者を貶め、攻撃するだけである。
この日の演題は「アジアの中の日本」。金氏は八紘一宇の如く、日本人は優等民族だと「自画自賛」する。だが、アジアの中で生きていかねばならない日本の将来の展望は、何も見えぬまま。どうにも視界不良であった。(N)(2014年8月10日 高知民報) |