2014年4月27日

TPP説明会における内閣参事官の発言
4月11日に高知県が主催したTPPに関する説明会(会場は高知市中央公民館)における内閣官房TPP政府対策本部部員・高橋和久内閣参事官の発言の要旨を紹介します。(中見出しは編集部)

情報提供について

高橋参事官 TPPについて情報提供が少ないと言われるが、TPP交渉には秘密保持契約があり、他の国も密保持契約に反しない中で工夫しながら情報提供している。日本が外国と比べ情報提供が遅れているとは考えていない。TPPに対する関心は日本が最も高い。我々としては情報提供していける範囲でやってきている。
 
日本の人口減少とアジアの成長 

高橋参事官 日本だけの社会経済活動をターゲットにしてやっていけるのか。2008年から総人口が減少に転換している。地方ではもっと早くから減っている。

特に問題なのは生産年齢人口(15歳から64歳)の急激な減少で、2014年の7780万人が25年には7085万人になる。1年あたり70万人、小さな県がなくなるくらいのペースで減っていく。2050年には5001万人。

生産年齢人口は一番購買力のある層で、生産の担い手なので需要と供給に大きな影響がある。さらに総人口が減る中で65歳以上は、14年の3308万人から増えていく。日本が高齢化を実現したということで大変喜ばしいが、他方で医療や介護費用、年金などの支出が働く人が少なくなる中で増えていく。地方が高齢化が進んでいるので、実感していると思うが、国もそういう状況。そういう観点からも日本の経済成長が重要だ。

日本の人口が減っていく中で、世界に目を向ければ、特にアジア太平洋地域は成長が著しい。世界の「成長センター」と言われている。人口増だけでなく、所得も非常に増え、市場として大きな期待が持てる。地理的にも日本はアジア太平洋地域の中心にある。日本が外の成長力を取り込んでいくことが大事だ。
 
貿易収支の動向

高橋参事官 かつて日本は世界中に製品を輸出し巨額の貿易黒字があったが、2011年から赤字に転じ、13年には8・7兆円の貿易赤字になった。他方で経常収支では、貿易収支の赤字を所得収支がまかない相殺して何とか黒字にはなっているが減額傾向。赤字になっている月がある。

経常収支は赤字でも良いという評論家がいるが、黒字が良いに決まっている。何故か。赤字になると資本を外国から借りなければならない。日本には過去の経常黒字があるので民間に貯蓄があり、国債残高はGDPの2倍で巨額だが、民間貯蓄のおかげで日本人がほとんど購入している。経常赤字になれば日本国内で国債を購入できず、海外から資本を借りてこなればならなくなり、日本の国債は世界的信用を失う。日本はこれから高齢化が進み、財政支出も増えていく。財政再建に取り組み貿易収支、所得収支をともに黒字にする政策運営をしていかなければならない。

輸出相手国の関税が撤廃されれば、日本の製品の競争力が高まる。非関税障壁のルール改善を求めていけば日本製品の輸出の増加につながる。相手国の貿易規則の不透明さの改善、通関手続きの簡素化を実現し貿易コスト削減、海外投資収益の日本国内へ確実に還元するルール化によって日本の経常収支への良い影響が期待できるのでTPPも含め経済連携協定の中で日本にメリットのあるルールが実現されるようにしている。

メガFTA時代

高橋参事官 159カ国が加盟するWTOは加盟国が多くなればなるほど利害が錯綜し、2008年のドーハラウンド以降、膠着状態になっている。新しい動きとして出てきたのがFTA(自由貿易協定)、あるいはEPA(経済連携協定)。FTAはWTOの一般ルールに上乗せして自由化する協定、EPAはFTAに加え投資や規制緩和、制度の調和、幅広い分野のルールを定め経済関係を強化する協定だ。

WTO交渉が難航する中でメガFTA時代が到来した。何カ国かで広域FTAを結ぶもので、TPP、RCEP(ASEANと日中韓印豪新)、日EU、TTIP(米EU)のメガFTA交渉が進んでいる。TTPIが世界GDPシェア45%、あとは3割程度。

なぜこのように世界中でメガFTAを重なりあいながら競って交渉が進んでいるのか。経済連携に入っている国の間には、貿易が拡大される効果があるが、入っていない国は輸出市場や競争力が失われ、サプライチェーン(国際分業)から外される可能性がある。メガFTAは相互的に作用しながらすすんでいく。

このトレンドの中で日本だけが経済連携に取り組まない場合は、日本の国際競争力が将来的に失われていく。一番経済規模が大きい広域経済連携がFTAAP(APEC21エコノミー)で、TPPとRCEP交渉がいずれAPEC全体に広がりFTAAP実現につながることを目指している。

メガFTAは2国間FTAとは違い、いろんな国が入ってくる。資源のある国、消費力がある国など、グローバルサプライチェーンに与える影響が大きく、ハイテク基幹部品、サービス供給国である日本にとりメリットが大きい。

TPPは世界のGDPの約4割、全貿易額の3分の1になり、これから成長が見込まれる経済圏であり、大きな経済圏でやったほうが貿易の拡大効果メリットは大きい。アジア太平洋地域の成長を日本に取り込むことは日本の成長戦略の柱だ。

サプライチェーン

高橋参事官 FTAで国内が空洞化するという心配があるが、生産工程の分業が進むと、1つの国で最初から最後まで作ることは難しく、原産地規則を満たすことは困難になる。広域FTAであるTPPで複数の締約国における付加価値、工程の足し上げを可能にする累積ルールが実現すれば、多様な生産ネットワークにFTAを活用することが可能となる。

日本で作って海外で組み立ててても、累積ルールがなければ広域FTA域内の国に輸出する場合、関税の優遇措置が認められないことになると部品メーカーが海外に出て行く。累積ルールがあれば日本メーカーが海外に進出しなくても関税優遇が受けられる。日本国内の製造ラインがTPP域内のサプライチェーンに組み込まれることになり、国内製造業の空洞化防止になる。

シンガポール閣僚会合

高橋参事官 農産物重要5項目には我が国には衆参農水委員会決議があり、センシビティがあることを粘り強く説明して、各国の理解を求め、関税撤廃だけでなくサービス、投資、政府調達など包括的でバランスの取れた合意を目指すべきだという考え方を強調した。日米間に一定の進展はあったが相当の距離感がある。オバマ大統領来日は一つの節目だが、それが締め切りではない。日本の国益を守ることが大事だ。(国会の)決議を守ることとTPPをまとめることは両立するという前提で全力をあげている。(2014年4月27日 高知民報)