2014年3月30日

コラムアンテナ 「浦戸湾 安易すぎる埋め立て同意」
 
埋め立て申請が提出された新高知重工のドック
高知市仁井田地区にある造船会社・新高知重工が、大型船の受注機会増のため総トン数25000トンに対応するための既存ドック拡張にともない、浦戸湾の一部=0・22ヘクタールを埋め立る許可申請が県に出され、埋立法による手続きの一環として3月26日に高知市議会はこの埋め立に賛成多数で同意した。県が許可すれば38年ぶりのことだが、岡ア誠也市長の認識はお粗末で、議会の議論も共産党を除くとあまりに低調。市是である「浦戸湾をこれ以上埋め立ててはいけない」という幾多の災害から導かれた先人の教訓から学ぼうとしない風化した認識が目立った。

高知市は同意の理由を、@新高知重工は県内工業企業の中核であり、その同社の生き残りをかけたドック拡張計画であること、A埋め立て面積が小さい、企業側から提出された独自調査結果では環境への影響は小さい、排水能力向上、防潮堤の整備、B1月17日の三里地区住民向け説明会で 反対意見が出なかったこと、としている。

この問題は、3月14日の同市議会本会議で細木良議員(共産)が取り上げ、坂本昭、横山龍雄歴代市長の「浦戸湾を残すことは私達の責務」、「我々人間は自然の威力というものにもっと謙虚に対応すべき」という言葉を引きながら、埋め立てによる防災面での影響など土木や専門家の意見が反映されていないことを指摘し、「面積が小さいから、産業振興のためならやむを得ないと簡単に結論を出してはいけない問題だ」と強調した。

答弁に立った岡ア市長は、かつてと比してポンプ場の能力が向上しているので問題ないと答えたが、これは本当なのだろうか。
 高知市が被った大災害でもっとも記憶に新しいのは「98豪雨」であるが、高知市と物部川方面が時間100ミリメートルを超える豪雨に見舞われ、国分川が異常増水して氾濫、市東部、中心部が大規模浸水した。濁流が流れ込み浦戸湾の水位が上昇し、河川が流れず逆流して雨水を排水できず浸水が拡大した。このような浸水時に、内水を浦戸湾に排水する能力が上がったことが被害を減らす効果があるものなのかが、よく分からない.。雨水をポンプで排水すればするほど浦戸湾の水位は上がるようにも思える。河川の逆流が抑止できるのだろうか。

また、国分川の堤防が整備されたことで「98豪雨」とは異なり、越流せずに全量が浦戸湾内に流れこむわけだし、物部川上流の山の荒廃で舟入川から浦戸湾に流れ込む水も増えることなども気に掛かる。

ところが、この問題に対応する高知市の窓口は商工観光部で、河川や港湾の技術的観点は皆無。これらの疑問を投げかけても分かるような回答は返ってこない。専門家の知見がどこにも示されないまま、浦戸湾の埋め立てが進んでしまっていることが最大の問題である。要は居酒屋談義の域を出ていない。

個々では小さな面積であっても、なし崩しに繰り返していけばトータルでは大きな面積になる。浦戸湾全体を見据えた科学的な議論が必要だろう。許可権者である県の港湾・海岸課は「議決を経た高知市の同意は、可否の判断材料として最も大きい」と言う。同課は港湾審議会の議論を経て4月下旬から5月上旬には結論を出すというが、この安易ともいえる浦戸湾埋め立てに、先人達は何を思うのだろうか。(N) (2014年3月30日 高知民報)