コラムアンテナ 「追い込まれる中学校現場」

 
1月9日に実施された県版学テを受ける中1生(記事とは関係ありません)
高知市内のある中学校で耳を疑う話を聞いた。ワタミやユニクロなど、苛酷な労働条件で知られる企業で重宝されている手法を用いた自己啓発セミナー「教師塾」の様式を、教師が生徒にやるよう指導しているという話だった。

「教師塾」とは株式会社原田教育研究所が主催する教師向け自己啓発セミナー。原田隆史社長を講師に「主体変容」(周囲のせいにするのではなく自分が変わる)と自己責任の強調をべースに、受講者に考える暇を与えない速いテンポの連続ミーティング、長時間拘束で半ば集団催眠にかけるような手法が特徴。

原田社長は元中学校教員で、陸上部で目標管理と自己啓発を用いた「教師塾」に通じる指導法により成果をあげたことで知られ、全国に信奉者が少なくない。

高知市教育委員会は原田式「教師塾」を全国初の教委公認研修として2009年から04年度まで取り入れ、のべ254人が受講している(複数回の受講者がいるため実数はこれより少ない)。

故吉川明男・前教育長と安藤保彦副市長時代に導入が決められ、実質的には原田式自己啓発に「はまって」いた安藤氏の肝煎りで持ち込まれて、市教委がそれを飲まされたのが実態だった。

2009年当時、このような原田式「教師塾」の問題点を高知民報として指摘し、セミナーの取材をしてきた。第1回目の開校当時の資料を改めて見返してみたが、関係者は一様に全国学力テスト最下位クラスの脱却のための「成果」と即効性のため、これまでにない研修に期待しているということを口を揃えて言及していたのが印象的だった。

全国学力テストの悉皆調査が始まったのが07年。全国ランキングで高知県の中学生は46位になり、その「足を引っ張っている」のが高知市であるという猛烈なプレッシャーの中、「成果」を求めて原田式「教師塾」にすがりついた様子が手に取るように伝わってきた。

原田式研修の生徒への持ち込みについて松原和廣・同教育長は「教員のスキルアップのために取り入れたもので、生徒にやらせることは想定していない」と生徒にダイレクトに持ち込むフライングに戸惑いを隠さないが、どうしてこのようなことが起きるのだろうか。

今年1月9日には県版学テが中学1年生にまで拡大され、4月には「本番」の全国学テを控える一方、中学生の問題行動は水面下で広がりをみせている。

このような中で「教師塾」を受講した教師が、よかれと思い「教師塾」の手法を生徒に持ち込もうとしたその心情も、ある意味分からなくもない。

しかし、集団催眠的な自己啓発は、結果や目標が明確な陸上競技などの場合には、それなりに効果的な場合があるかもしれないが、生徒の内面に入り抽象的な長期目標を幾重にも迫る原田式研修と同じことを学校教育の中で中学生に求めるのは無理がある。たとえ教師であっても戸惑う代物であり、生徒が困るのは当然だ。

当該校の校長は「どんな指導法にも合わない子どもはいる。この指導に生徒が不適応を起こしているなら改める」としているので、再発はないと思いたいが、「成果」を求められ追い込まれている中学校現場の有り様こそが心配だ。(N)(2014年1月19日 高知民報)