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空自が装備するパトリオットミサイル |
集団的自衛権の行使について「一定認めるべき」という認識を示した尾ア正直県知事ですが、これまでみてきたように、@集団安全保障と集団的自衛権の捉え方、A弾道ミサイル迎撃が個別的自衛権の範囲であることへの認識の不十分さ、Bミサイル迎撃システム(BMD)の過大評価など、議論の前提が十分でない事が伺えます。同時に尾ア知事は海外で戦闘行為に加わるような事例は「自衛とはいえない」とし、さらに内閣が解釈を変えることで、これまで違憲としてきた集団的自衛権の行使に転じる手法には批判的な見解も示しています。
尾ア知事は10月31日の記者会見で「自衛の目的を超えるものについては認めるべきではないことは明確。多国籍軍に参加して、イラクを攻めることに日本が参加するのは自衛の範囲を越える」と、慎重な国民的論議を求め、自衛の範囲について外国で戦闘する行為は認められないが、シーレーン上で共同作戦中の外国艦船が攻撃された時への対応については議論があるだろうとしました。
この問題について第一次安倍内閣で内閣官房副長官補(安全保障担当)を務めた柳澤協二氏は「本格的な戦争を意図した攻撃は米軍の報復を恐れ抑止されるが、仮に抑止が効かず米艦が攻撃される時には、並行して日本有事となるので個別的自衛権の問題になる。可能性があるのは摩擦的衝突だが、このようなケースは外交的危機管理で事態を収拾すべきであり、やみくもに自衛隊が応戦して事態をエスカレートさせることは米国にとっても望ましくない」(『改憲と国防』(旬報社)と指摘しています。
このように、「集団的自衛権」を必要とする「4類型」の議論を深めれば、おのずとその虚構性が浮かび上がってきます。
■96条は現行で
尾ア知事は「とにかく、今の時代の判断が何十年後、半世紀後、1世紀後、とてつもない誤りにつながっていく可能性もある。とにかく慎重に、しっかり国民的議論に付していくことが非常に大事だ。無理を通して解釈の変更でいくというやり方はしないほうがいい。堂々と憲法改正について議論したほうがいい」とも強調し、安倍政権のなし崩し的な解釈改憲による集団的自衛権行使に否定的な認識を示しました。
徹底した国民的議論の結果として集団的自衛権行使が必要とされた場合は憲法を改定すべきとする一方で、改憲のハードルを下げる96条改定には「よくよく考えたほうがいい側面がある。今の時代の状況にあわせて憲法を変えやすくするということであるかもしれないが、憲法を悪い方向に容易に変えやすくすることにもつながる。米国の憲法も決してハードルは低くないが、徹底して議論して修正につなげている。どちらかといえば憲法第96条は現行のまま残し、徹底した議論を行っていくべきではないか」(10月31日の会見)。
知事は6月7日の会見では憲法96条について「硬性な憲法であるべきか、軟性な憲法であるべきかは議論を重ねて行くべき問題」など、96条堅持についてあいまいな表現をしていましたが、今回は96条を堅持し憲法改定の論議をする必要性があるという立場で発言し、一内閣の判断で歴代政権が積み上げてきた憲法解釈をひっくり返し、軽々しく集団的自衛権行使に踏み込もうとする安倍内閣の姿勢とは一線を画しました。
尾ア知事は、財務官僚時代、第一次安倍内閣の官邸スタッフを務めていた経歴もあり、第二次安倍内閣発足以来、政権との近さを最大限強調し、アベノミクスも礼賛してきましたが、ここにきて内閣の命運がかかる重要な案件である集団的自衛権行使については一定の距離を置いたことは注目されます。(おわり) (2013年11月17日 高知民報) |