本当に必要か「集団的自衛権」(中) 個別的自衛権で対応可能

9月定例県議会で「一定認めるべきだと思う」と安倍内閣が狙う集団的自衛権行使について、踏み込んだ発言をした尾ア正直県知事。10月31日の定例記者会見では、記者団と以下のようなやりとりがありました。尾ア知事の集団的自衛権についての認識をさらに見ていきます。

尾ア知事 集団的自衛権を認めるのか、認めないのか。ゼロか1みたいな議論はおかしい。どういう集団的自衛権なら認められ、認められないのかを細かく議論することが大事。大ざっぱな議論では際限がなくなる可能性があり非常に危険だ。

すべての類型について考えが固まりきっているわけではないが、少なくとも頭上を同盟国に向かって(弾道ミサイルが)飛んで行った場合、打ち落とせるのに、打ち落とさないでいることは、よろしからずと思っている。無辜の同盟国の国民を見殺しにする行為であり、それが連鎖して日本国民も危険に晒すことになってしまう。


尾ア知事は、集団的自衛権を行使する事例を具体的に議論する大切さを強調。行使すべき事例としては、北朝鮮を想定し、アメリカに向かう弾道ミサイルが日本上空を飛ぶ際に、これを打ち落とすことをあげました。しかし、知事が示した事例は、幾重にも成り立たない空論でしかありません。

成り立たない理由


@日本上空を飛ぶミサイルを迎撃する場合、個別的自衛権で対応でき、集団的自衛権を行使する理由にはならない。これまでの北朝鮮の「衛星発射実験」の際には、ミサイル防衛能力を持つとされる自衛隊のPAC3や、イージス艦が現行の憲法解釈の下で迎撃態勢に入っている。

A「打ち落とせるのに打ち落とさないのは、よろしからず」。アメリカに向かうミサイルの迎撃能力を自衛隊が有しているというのは明らかに誤り。自衛隊のミサイル防衛システム(BMD)はイージス艦に搭載されたSM3ミサイル、地上配備されたPAC3(パトリオットミサイル)であるが、PAC3は弾道ミサイルが軌道の最高点を過ぎ、大気圏に再突入した後、狙い撃ちするミサイルで、日本に落ちてこなければ迎撃できない。

SM3は、大気圏外の放物線の軌道の頂点付近で弾道ミサイルを迎撃するとされるが(これ自体が現実的ではない)、北朝鮮と日本の距離が近すぎるため、日本上空を飛ぶハワイ、北極回りでアメリカ本土を狙うミサイルは上昇中となり、これを追尾して迎撃する能力は世界中にない。グアムを狙ったミサイルならば理論上はギリギリ可能な場面があるかもしれないという程度のことであり、北朝鮮からアメリカに向けて発射された弾道ミサイルを迎撃する能力を自衛隊は有していない。

このように、具体的に見ていけば尾ア知事の言う論点は空論であり、ミサイル迎撃に前のめりになるような状況はどこにもありません。かつての侵略国・日本が過去の戦争を美化する歴史認識で集団的自衛権行使に踏み込んでいけば、それ自体がアジアの不安定要素の拡大につながり、アメリカも日本の集団的自衛権行使には慎重になっている面もあります。国連の枠から外れる時代遅れの集団的自衛権ではなく、平和憲法を持つ国として国連の枠組を大切にしながら非軍事的な貢献を徹底することが、アジアの安定、日本国民の安全につながるのではなでしょうか。(つづく) (2013年11月10日 高知民報)