コラムアンテナ「村木厚子事務次官の里帰り」
 
講演する村木事務次官(10月29日、かるぽーと)
土佐高校、高知大学出身で、大阪地検の不当弾圧とたたかい無実を勝ち取り復帰、厚生労働省の官僚のトップの座についた村木厚子さん(57)が、10月29日に高知市内で「女性の活躍」をテーマに講演した(高知労働局主催)。村木さんが「ねんりんピック」で来高する予定に合わせて組まれた催しであり、事実上の次官就任凱旋イベントだった。

村木さんの語り口は、「村木マジック」とでもいおうか、いつものことではあるが、柔和で気さく、流れるようによどみなく聴く者を魅了する。いや、魅了させられたような気分になる、

この日の講演でも、特に前半部分は、人口の半分を占める女性の潜在力をいかし切れていない日本の現状や、少子化の実態を指摘。日本の職場に根深く残る後進性を手厳しく批判して、少子化の根本原因を不安定な雇用と、子育てをしながら働くことができない職場の実態だと述べるなど、論旨明快、歯切れが良かった。

このように入口は素晴らしいのだが、話の出口がいただけない。

とたんに論旨が不明確になり、消費税率10%への引き上げについて「全額社会保障の財源に使い、子育て支援を充実させる財源にも位置づけられた。大きな政策転換だ。期待してほしい」と自賛。アベノミクスが女性の活躍促進を掲げていることなども得得と紹介した。

消費税増税が子育て世帯を直撃する実態などまるで眼中になく、やろうとしている子育て支援策といえば、公的保育の解体につながることから全国の保育関係者や保護者が猛反発している「保育新制度」。厚労省の事務次官なのだから当たり前ではあるのだが、語り口が素晴らしいだけに罪深い。

また村木さんは、自身が不当逮捕され、拘置所に勾留されたエピソードを紹介し、「頑張れたのは、家族・職場の仲間・近所の人達の応援、プロの弁護士の支援、自分自身が頑張ったから」。手錠をはめられた体験をユーモラスに語る場面など、聴衆の女性たちが前のめりになり、深くうなずきながら聴いていたのが印象的だった。

むろん村木さんのいわれなき逮捕は許されない冤罪であり、大変な状況の中で屈せず筋を通したこと、多額の国からの賠償金を障害者施設に寄付したことなどは本当に立派なことである。

しかし、本人の意図はともかく、結果的に村木さんのこの大変な体験が、消費税増税やアベノミクスを正当化する方向へと収斂させていくのに使われているのが透けて見え、複雑な思いがした。

村木さんは講演を「女性や障害者など弱い立場の人達が自信を持って生きていけるよう支援する」とにこやかに締めくくり、拍手喝采を受けたが、同日、厚生労働省は、難病患者の医療費自己負担額を激増させる非情な引き上げ案を公表。患者からは「生きて行けない」という悲痛な叫びがあがった。消費税を上げるのは社会保障充実のため、と胸をはる村木さんの言葉が虚しく思いおこされた。(N) (2013年11月10日 高知民報)