コラムアンテナ「対話する能力」
 
ガラガラだった説明会(10月25日、高知市役所たかじょう庁舎)
高知市の学童保育=児童クラブ利用料を月額800円引き上げる条例改定が9月27日、高知市議会で可決成立し、来年4月から実施される。この問題を通して高知市政と市議会多数派の、市民生活に無関心な本性をつくづく見せつけられた。

今回の値上げ案を児童クラブ利用者が知ったのは9月4日の地元紙報道。前日に岡ア誠也市長が9月議会に提出する議案を発表した後の記事であったが、保護者には寝耳に水。高知市保護者会連合会は、市教育委員会に「利用料引き上げ時には、話し合う約束があるにもかかわらず、一方的に値上げ案を提出したのは信義に反する」と抗議し、十分な説明を求め市議会に陳情を提出した。当然だろう。

このような事態になり、同議案を審議する市議会経済文教委員会は、当初9月24日に予定していた議案採決を26日に延期。25日夜には市教委が主催する「説明会」が急きょ開かれた。

市役所を会場にした説明会には保護者15人ほどが出席した。児童クラブに子どもを預ける共働き家庭が、いきなり平日夜に出てこられるはずがない。

保護者に説明するつもりがあるなら、せめて各児童クラブごと、全部が無理ならせめて中学校区くらいにまとめてでも、市教委が地域に出向くのが筋というもの。これでは採決に間に合わせたアリバイにしかみえない。

19時から始まった説明会は紛糾し、話し合わないままの一方的な値上げ案の取り下げを求める保護者側と、「議会提案より前に保護者に説明することはできない」、「議案は取り下げない」、「あとは議会の判断」などと問答無用の市教委の認識は交わらないまま22時、時間切れ終了した。これが「説明」なのか。

にもかかわらず市議会は、翌26日の経済文教委員会、27日の本会議で値上げ案を賛成多数で可決した。すでに「説明」は済んだと思っているようであるが、あまりにも表面的で形式的だ。

説明会では手続論だけでなく、少なくない母親から、「8100円になると兄弟だと16200円(年間19万4400円)になる。これではとても預けることができない」などという厳しい生活実態が出されたが、賛成した議会多数会派は、継続審議にすらせず、保護者の声を多数で踏みにじった。

故横山龍雄・元市長は、し尿処理施設建設による水質汚染に不安を抱く地元と対話を重ね、これからの市発展のためにどうしても必要な施設であること、水質汚染の心配はないことを説くが、納得しない住民から「そんなに言うなら飲んでみろ」と言われて、市長自ら本当に飲んだことをきっかけに住民の理解がすすんだという逸話はあまりに有名である。「市民の心を心と」して当事者と徹底的に対話する。これがかつての高知市政の真骨頂だった。

今はどうか。児童クラブ利用料だけでなく、旭地区区画整理事業でも、事業に慎重な意見を述べるグループとは対話窓口をシャットアウトして話さないなど、当事者不在が目に余る。「市民の心」はどこへ消えたのか。

公明党・高木妙議員は、説明会で執行部の手法を批判して出席していた保護者から拍手喝采を受けておきながら、27日の本会議では継続審議に反対(経文委での賛成から転じた)し、値上げ案にも自民系、民主系会派とともに賛成。高木議員自らが賛成討論に立った。何ともいえず後味の悪い結末だった。(N) (2013年10月6日 高知民報)