2012年11月11日
地下工事にひそむ危険 内径800ミリ 苛酷な環境 高知市下水工事で死亡事故
 
800ミリメートル径の泥濃式掘進機
 
10月27日、高知市が発注した同市朝倉横町の下水道建設工事(内径800ミ
リメートル汚水管推進工)で、掘進作業中に地下水と土砂が異常流入し、逃げ
遅れた孫請会社の作業員2人が死亡した事故は、地下工事の死角を見せつけました。11月1日には同市都市建設部が会見を開き事故概要を説明。原因はまだ不明であり、国土交通省と協力して、解明と再発防止に務めるとす述べるにとどまりました。事故から見えてきた「推進工事」の危険について調べました。

泥濃式推進工法

今回の工法は「泥農式推進工事」で、地上から溝を掘り直接埋設する開削工事と異なり、作業用に掘った発進立坑から到達立坑まで水平方向に横坑を伸ばす工法です。

掘進機が地中を前進する都度、後尾に下水管を継ぎ足し油圧ジャッキで押し込んでいきますが、騒音や地上の交通規制など市民生活への影響が開削工事と比べ少ないことから、都市部の下水工事では一般的な工法です。

今回、深さ9メートルに埋設していた下水管の内径は80センチメートルでした。「泥濃式」では管径と同じサイズの掘進機内の切羽近くで、排土の障害になる(径12センチメートルほどの排土用パイプが詰まる)石を、人が手作業で選別除去する作業が求められ、さらに今回施工業者が使用していた掘進機が掘進速度や圧力、カッターの回転力、排土用の弁などを手動で操作するオペレーターも掘進機内で作業するタイプであったため、掘進機内の2人が犠牲になりました。

海治甲太郎・高知市都市建設部長は「地下水の存在は事前調査で把握しており、工法に問題はなかった」としています。

排土は人力頼み

亡くなった2人が作業していた現場は、内径80センチメートルという満足に身動きができない極めて狭い空間。掘進機の動力モーターに近く、激しい騒音、高熱の中で常にうずくまって作業しなければならない苛酷な環境でした(80センチメートルは人間が入って作業することが認められている最小径管)。今回の事故は掘進を始めて4日しか経過していない時点で起きたため、事故時2人は立坑から3、4メートル程度入った地点にいましたが、計画通りに掘り進んでいれば、最終的には300メートル以上も横坑が伸びるはずでした。

直径80センチメートル、長さ300メートルのトンネルの先端部での労働が強いられ、異変時のとっさの対応、立ち上がることができないため避難が難しく、救護措置もままならない危険な現場での厳しい作業であり、前近代的で非人間的な労働環境といえます。

採用している工法が「泥水式」であれば、切羽に近い先端部分に常時人が入る必要はありませんでしたが、「地下水に与える影響が大きく、周辺の井戸水を汚染させる可能性があるため採用していない」(高知市下水道建設課)

事故原因の解明は今後に委ねられますが、現在判明している状況からは、人的な操作のミスや排土用の弁のトラブルなどが考えられます。

これほど厳しい労働環境であるにも関わらず、土砂の異常流入時には手動でレバーを動かして緊急ゲートを動作させる以外にバックアップする方法がないなど、作業員を守る対策は貧弱。「あっという声を聞いてのぞき込むと作業員が土砂に埋まっていた」との目撃証言があるように、緊急ゲートが閉じられることはありませんでした。緊急時の対応を作業員任せにするのではなく、危険が生じた場合に、自動で緊急装置を作動させるなど作業員を守る仕組みが必要です。

そもそも、径80センチメートルの管内で人を働かせることが許されるのか。全国的には類似の事故事例なかったといわれており、今回の事故を契機に基準をきびしくする議論が求められるのではないでしょうか。

※11月5日の高知市議会建設委員会で海治部長は今後、高知市発注工事では独自の方法を研究して80センチメートルの管内に人が常時入ることがない措置をとると述べた。(2012年11月11日 高知民報)