家庭の経済状況にかかわらず高校生の学習を保障するために重要な役割を負う県高等学校奨学金(貸与)に、早ければ現在の高校3年生から、卒業後に就職がなくて本人に収入がない場合、無期限に返済を猶予する制度スタートにむけて県教育委員会が準備をすすめています。
現在の県高校奨学金制度は、@月額18000円か23000円(国公立)、A月額30000円か35000円(私立)を、定められた収入以下の世帯の生徒本人に無利子で貸与するもの。
高校卒業後(進学した場合は返済が猶予される)、7年から20年の期間で(返済金額は月額数千円から1万数千円程度)返済していきます。
しかし、今日の深刻な不況下、高校や大学を卒業しても就職が困難な状況がある中で、利用者本人の収入に連動して返還を猶予する仕組みはなく、返還率は70%程度(累積)。少なくない滞納(年10・95%の延滞金がかかる)が発生しているのが実際です。利用するには連帯保証人を2人付けなければならず(両親でも可)、「借りても返せない」という不安から利用をためらう事例もみられます。
県教委が準備している返還猶予制度について県教委高等学校課の門田美和チーフは「細部は検討中だが、貸与された利用者本人の収入が生活保護基準以下であれば返済を猶予する仕組みを考えている。今年度中に制度を作り、早ければ今の高3生(25年10月から返済開始)から使えることになる」。
県教委が返還猶予制度導入を急ぐのは、文部科学省が設置した「高校生修学支援基金」(21年から26年度まで、23年度末残高は約2億2千万円)を、高校奨学金を充実させるための財源にあてるためには、返還猶予制度を創設することが条件付けられている文科省の誘導策に県教委が乗っているという側面があります。
しかしながら、「基金」の今後は不透明であり、26年以降については先が見えない状況ですが、中沢教育長は「県としては恒久的な制度として検討を考えている」と2月県議会(岡本和也議員の質問への答弁)で明言しました。
この県教委の判断は、高校生が「借金」しなければならない貸与型奨学金の限界、どのような家庭で育っていても生徒本人の学習を保証するという本来目的からすれば、まだまだ課題がある現行制度の中ではあっても、収入に連動した返還猶予の導入を実現させることは極めて重要な前進といえます。
中沢卓史・県教育長は取材に答え「一度この制度を始めたら、財源がなくなったのでやっぱり止めます、などということはできない。国の基金の動向がどうであれ、県教委として覚悟を決めて取り組む」と話しました。(2012年10月14日 高知民報) |