2012年2月19日

政府のTPP説明要旨

2月7日、高知市で開かれたTPPに関する説明会で中川周・内閣官房内閣総務官室企画官、葛原裕介・農林水産省国際経済課国際専門官の説明内容の要旨は以下。

中川企画官 なぜ日本が包括的経済連携をすすめようとしているのか。日本が中長期的に一番問題なのは少子高齢化だ。労働人口減少、高齢者増加。以前から分かってはいたが、昔のような右肩上がりは期待できない。このような中で政権交代があった。政府の大きな経済政策として出された新成長戦略は、先端医療技術や環境といった新分野でのイノベーションで内需を拡大し、より国際社会に開かれた経済対策で外国の需要をとりこんでいくのが骨格。

前自民党政権時代から、日本はASEAN諸国などと二国間、複数国間での経済連携協定をすすめる方向に舵を切っているが、貿易額の大きい中国、アメリカ、EU、韓国などが残っており、まだまだ余地がある。これまでの日本の関税撤廃率は85%前後で、残り15%は撤廃したことがない。日本に残された大きな貿易相手国は軒並み95%以上という高いレベルで関税撤廃している。日本がこれらの国と経済連携協定を結ぼうとした場合に、このレベルの関税撤廃が求められることになる。

日本は低いレベルの経済連携は、できる相手とは大方やってしまった。さらに踏み込み、日本の貿易を活性化するためには、これまでやってきたことのないレベルの経済連携=高いレベルの経済連携をやっていかなくてはならない。

政府は世界の主要貿易国との間で、高いレベルの経済連携を推進する基本方針を一昨年11月9日に閣議決定。同時に競争力強化のため抜本的国内改革を先行的に推進、食料自給率向上、持続可能な力強い農業を育て、TPPは情報収集をすすめながら対応し関係国との協議を開始している。
 
TPPの現在の位置

昨年11月、野田総理はTPPの協議に入ること、世界に誇る日本の医療制度、美しい農村は断固守り、関係各国との協議を開始し、さらなる情報収集に努め十分な国民的議論を経た上で国益の視点に立って結論を出すと述べた。将来はアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)、アジア・太平洋すべての国が加わった自由貿易圏、関税のない世界をつくるのが究極の目的だ。

TPPは全品目の関税撤廃する高いレベルの協定だが、2010年にアメリカと豪州が入ってにわかに注目され、FTAAPの方向につながりうる重要な取り組みと見なされるようになった。いつできるかは分からないが、唯一交渉が実際にスタートし、可能な限り速やかに今年中に基本的合意をしたいと言っており、協議も速いペースですすんでいる。TPPで決まっていくルールは将来のFTAAPの中で主流になる可能性がある。

TPPは物品だけでなく、非関税分や投資、競争、知的財産、政府調達など新しい分野を含む包括的協定として交渉されている。広いといえば広いが、これまでASEANなどとのEPAで分野としてはほぼカバーしており(環境と労働以外)、幅の広さより中身が問題だ。

会合は2012年中に完成させることを目標にハイペースですすんでいるが、できあがったものはまだない。関税撤廃交渉ではセンシティブ品目の除外や竿協議は認めないとする国が多いが、コンセンサスには至っていない模様だ。昨年11月12日、交渉参加9カ国の首脳会合が開かれ、大まかな輪郭が示されたが、ぼやっとしたことだけで完全に決まったことは何もなく、大まかに議論をしているというだけの内容。今年中にまとまるか懐疑的だ。
 
個別分野について

医療 混合診療を不可避的に認めさせられ、営利企業が参入することで「日本の国民皆保険制度が崩壊するのではないか」とよく言われる。そのような要求が出される可能性がないとはいえないが、今のところ混同診療や営利企業の医療参入は議論の対象になっていない。将来も議論の対象にならないのか、あるいは日本が参加することになった場合に対象となり得る可能性は否定できないが、各国の医療制度はまちまちなので日本独自のシステムがあるからこそ存在する要求が、共通の約束になるのかは甚だ疑問を感じる。

ただし薬価については議論になっているが、どうなるかは分からない。野田首相は世界に誇る医療制度を守ると明言しており、政府としては安心安全な医療が損なわれないようにする。

労働分野 外国から質の悪い医師や看護師が入ってくるのではないかという声がある。さらに単純労働者が海外から入ってきて地域の雇用を奪うのではないかという飛躍した議論もある。政府は医師・看護師を海外から積極的に受け入れると決めたことは一度もない。インドネシアやフィリピンとの特別な関係で看護師、介護福祉士の候補者を受け入れているだけで、移民奨励ではまったくない。資格試験の免除は国民の健康や安全に関わる分野であり考えられない。政府としてありえない。論外だ。

単純労働者を受け入れるのは移民政策。経済連携協議での「人の移動」は、ビジネスマンの出張の手続きを簡便にするという世界の話であり、単純労働者の移動は、そもそも議論の対象になっていない、議論したいという国も考え難い。

政府調達 地方の公共事業が外国企業に取られるという懸念は多く寄せられている。WTO政府調達協定に入っている国は、今も一定金額以上は内外に差別ない対応をすることになっていて、日本も入っているので地方も政令市レベルまでこれに従うことになっている。

TPPによって地方がさらなる約束を求められる可能性はある。だがWTO協定に入っているのは9カ国のうち2、3カ国なので議論を進めてていき、WTO並か、以下か、以上になるのかはまだ分からない。今の時点では中央政府の調達の議論をしているが、ここでれば日本は国際的に何ら遜色ないレベルなので心配ない。

問題は地方。金額を中央並みに引き下げられた場合、地方でもより外国企業に参入しやすくしなければならないが、すべては可能性の話で、今の時点で大丈夫ですともダメですとも言えない。今後仮に日本が参加したとして、地方自治体の声はちゃんと聞きながらやっていく。

農業 コメや乳製品などは「これだけは譲れない」という立場で交渉に臨んでいくのかという質問に答える。TPPは基本的に10年以内にすべての関税を撤廃するのが原則になるが、即時か、段階的撤廃か、どの程度か、除外があるのかということは現時点で明らかではない。すべての品目を対象にすることが求められるが、扱いは交渉次第だ。これまで日本はEPAでコメ、乳製品、牛肉、小麦などを除外してきたが、逆にASEANなどからは自動車部品などが取れなかった。TPPに限らず、今後日本が高いレベルの経済連携をすすめるには、入り口からダメではなく、テーブルには載せなければならない。交渉なので最初から手の内を晒しても有利にならない。
  
会場とのやりとり

−−農水省はTPPTにより食料自給率が13%に下がると試算している。50%をめざす目標と矛盾するのではないか。

葛原専門官 50%はあらゆる努力の結果達成できるものだが、目標が変わった訳ではない。高いレベルの経済連携と食糧自給率50%とを両立させていくということだ。13%は関税障壁をなくし、何もしなかったら国土の条件に限界があるので国内生産が落ちるという一つの試算だが、あくまで方針は両立を図るということ。

−−自給率を今の4割から5割に上げるのも大変だ。両立というが所得保障で守ることが可能なのか。どれだけの予算がいるのか。

葛原専門官 目標は最大限努力した結果であり、消費者の嗜好も加味されるので、そう簡単にできるものではない。金を積めばできるものでもないが、困難だが目指してやっている。

−−「高いレベル」の結果が分からない。工業だけが発展すればよいのか。

中川企画官 できる範囲の経済連携は一巡した。さらに日本が少子高齢化が不可避になる中で成長を続けるための大きな方向を考えた時、今の政権党は日本は外に市場を求めていかないと内需はどんどん縮小していくという大きな戦略を持っている。

TPPに参加したとしても、それはゴールではない。日本が将来的に実現したいと考えているのは、アジア・太平洋の自由貿易圏であり、その中で投資や知的財産など、日本が稼げる部分で有利な高いレベルのルールを実現したいというのが大きな長期的目標だ。その道筋の一つとして日中韓があり、ASEAN+3があり、TPPがある。

95%をやるとしたら、これまで守ってきたものを、かなり撤廃しなければならない。これまでのやり方だと、もう相手がいないというのが現実としてある。ここから先に進めようと思ったら、これまでの「国境措置」ではなく、国内の諸々の措置を通じ、守る物は守っていく。関税で輸入を止めるのではなく、そこは開きながら、国内が成り立つような手当をしていく。

考え方のシフトがあったのは確かだが、農業を捨てて工業でやっていくという判断を政権がしたわけではないと私は考えている。そうではなくてやり方を変える。「国境措置」ではなく国内措置で農家の所得を守る。生産性向上は中山間地では難しい部分があると思うが、そこは知恵を絞っていく。自由貿易をすすめ、儲かる部分からきちんとリソースが回る仕組みを考えていくのが食と農林漁業再生の肝だ。

高いレベルの経済連携を進めると決めた時点で、これまで「国境措置」、関税で守ってきたものが守られなくなる部分が出てくる。関税がなくなってもやっていける国内農業を作り、そのための方針と行動計画を作る。政府は両立は可能、両立させるという強い考えのもとにやっている。

−−高知県の中山間は所得保障からこぼれそうな地域ばかりだ。現状を理解
しているのか。

葛原専門官 それぞれいろんな地域に条件がある。地域の特性を踏まえた対策をTPPと関係なくやっていかなくてはならない。(2012年2月19日 高知民報)