2012年1月15日

コラムアンテナ フクシマ抜きの副読本が全生徒に

「知っておきたい放射線のこと」。文部科学省が、全国の小中高学校の全児童生徒向けに作った副読本の配布がまもなく始まる。

1月6日に高知市内で開かれた県立高校校長会では、県教育委員会事務局から、この副読本が3月中に各県立高校・特別支援学校に文科省から直接届けられるという報告があった。

校長からは「副読本を生徒に配ると、保護者から問い合わせがあると思う。高知県への放射能の影響はあるのか。質問にどう答えればよいのか」などという不安げな声も聞かれた。

事務局は校長の声に対し「理科の教科書に書かれている一般的な放射線の知識をまとめている域をでないもの」と述べるだけで、活用方法についての指示は特になかった。とにかく配ってしまえば良いというのが本音だろう。

この副読本には何が書かれているのだろうか(文科省のウェブサイトから読むことができる)。事務局が言うように放射線の一般的な知識について書いてあるだけという指摘はその通りであるが、それだけに止まらない重大な問題がある。

この副読本には「まえがき」で一言だけ触れていることを除き、福島第一原発の事故についての記述も写真も全くないのである。今、全国の子どもらが学ばなければならないのは、一般的な放射線の知識で止まるものではない。

大量に環境中に飛散し、今も流出を止めることができていない放射線による国土の汚染の具体的事実、とりわけ被曝のリスクが高い子どもらを外部被曝・内部被曝から守り、影響を最小限に止めるための具体的方策、これからの数十年間を放射線とともに否応なく生活していかなければならない現実をしっかり理解させることではないだろうか。

これらは原子力発電への見解がどうであれ、3・11後の日本で暮らす、すべての国民に突きつけられている動かしがたい現実である。

しかし、この副読本は現実から目を背け、一般的な放射線の知識でお茶を濁し、結局のところ被曝は怖くない、事故は大したことはないというメッセージを発するものになっている。

冊子を作ったのは文部科学省であるが、教育部門ではなく研究開発局という旧科学技術庁の流れをくむセクションで、悪名高い高速増殖炉「もんじゅ」をすすめている部署である。

同局のウェブサイトには「国として戦略的に重要な原子力の研究開発を、安全確保を大前提に、着実に推進しています。(略)高速増殖原型炉『もんじゅ』等による核燃料サイクルの確立に向けた研究開発を推進しています」と現在も書かれている。

原発推進部門が冊子を作れば、このような内容になるのはある意味当然。おまけに文科省が冊子の作成を外注したのは、役員に電力会社幹部や日立製作所や三菱重工など原発メーカー関係者がズラリと名を連ねる財団法人・日本原子力文化振興財団(JAERO)。国費を浪費しての「お手盛り」もいいところである。
 
この副読本には「放射性物質を扱う施設(原発とはなぜか書いていない)で事故が起こり、周辺への影響が心配される時」の心構えについての記述が一応あり、そこには「正確な情報を得て、落ち着いて行動することが大切です」と書かれていた。

文科省といえば3・11直後、福島第一原発が水素爆発を起こして大量の放射性物質が大気中に飛び散った時、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」(スピーディ)の情報を、国民や自治体に隠蔽したために、子どもを含め多くの福島県民が避けられたはずの大量被曝をさせられるという犯罪的役割を果たしたことは記憶に新しい。その重大な責任を誰もとっていない文科省が、したり顔で「正確な情報」などと子どもに言うのはブラックジョークでしかない。

「もんじゅ」と核燃料サイクルを推進している部署が作った副読本を、今、なぜ全国すべての児童生徒に配らなければならないのか。もうじき各学校に冊子が届けられることになる。先生方には保護者とよく話し合って扱いを決めてほしい。(N)(2012年1月15日 高知民報)