2011年10月23日

コラムアンテナ 「アル中」 偏見に満ちた認識

一瞬、耳を疑った。聞き間違えではないのか。

いくら何でも高知医療センターという高知県随一の公的医療機関の医師トップである病院長が議会の場で、そのようなことを言うはずがない。

しかし、その言葉は繰り返された。

「アル中」。

10月12日に同センター内で開かれた高知県・高知市病院企業団議会臨時会に引き続き開かれた議員協議会で、現在建設中の精神科病棟についての質疑への堀見忠司病院長の答弁。

堀見病院長はアルコール依存症患者のことを「アル中」と言っただけでなく、「アル中」患者は凶暴で暴力をふるうという趣旨の発言を繰り返した。

「アル中」は、単なる蔑称というだけでなく、医学的にも誤っている。イッキ飲みによる急性アルコール中毒とは異なり、アルコール依存症は、アルコールという物質によって中毒症状を起こしていることが主要な問題なわけではない。

一般の中毒症状のようにアルコールを抜けば解決するというものではなく、自らの意志をコントロールすることができずに酒に依存してしまう精神の疾患であり、「地域の中でオープンにして治療していくことが大事だ」と長く断酒会の活動をしている小林哲夫さんは話していた。

依存症=暴力的というのも、まったくのステレオタイプで、すぐに寝込んでしまって暴力的にならない依存症患者も多いのが実際だ。

この程度のことは、いくら外科が専門であっても、長く医療に携わってきた医師であれば、釈迦に説法ではないかと思うのだが、どうしたことか、堀見病院長の答弁はあまりに非科学的でお粗末な偏見に満ちていた。

アルコール依存症患者団体は、このような社会に残存している偏見を克服していくことが、地域社会で治療をすすめていくうえで重要な課題であると位置付けて日々活動している。

これから精神科病棟を持つ公的医療機関の医師のトップが、病院議会という公的な場で、このような答弁を平然とするという認識レベルであるということは、単なる「失言」に止まらず、病院長、いや医師としての適格性、資質が問われるのではないだろうか。

この日、病院組合議会を取材していたメディアは高知新聞と高知民報だけで、全国紙やテレビ局の記者の姿はなかった。翌日の高知新聞には病院議会の結果を書いた短い記事が載ったが、この件については何も書かれていなかった。「偏見ではないか」と抗議した議員がいたにも関わらず。

同紙が取るに足らない発言でしかないと考えたのか、それとも何か別の判断が働いたのかは分からないが、病院企業団議会の議員協議会は議事録が公開されないので、高新が書かないことによって、この事実は埋もれかねない。高知医療センター病院長という極めて公的で、県民の医療に重責を担う人物が、このような認識を持っているという事実は、不幸なことではあるが県民が知っておくべき情報ではないのか。情報とは一体誰の物なのだろうか、ということも併せて考えさせられた。(N)(2011年10月23日 高知民報)