2011年9月18日

コラムアンテナ 動き始めた高校再々編

 浸水被害が予想される立地の高校は多い(高知南高校)
これからの高知県の教育にとり極めて重大な影響がある県立高校の再々編議論がスタートした。9月5日、第1回県立高等学校再編振興検討委員会が開かれたのだ。

委員会は平成24年夏に報告書を作成し、それを受けて県教委は25年3月に「再編振興計画」策定を目指している。

これからの同委員会の討議が、県下の高校再々編に決定的ともいえる影響を与えることになる。

中沢卓史・県教育長が冒頭あいさつで再編の理由について、「平成32年には中学校を卒業する生徒が1300人減る見込み」であることを強調したように、今回の高校再編計画は23年に7057人いる中卒生が、32年には5785人になるという現実を前提に、高校の「適正な規模と配置」はどうあるべきかを指し示すものになる。

中沢教育長は今回の計画が単なる「再編」ではなく、「再編振興計画」であり、「適正な規模と配置」を決める際には、地域活性化と防災の視点を加えるとも述べた。

委員長は受田浩之・高知大学副学長、副委員長は吉岡珍正・越知町長に決まった。計画の行方について、あれこれ言うのはまだ早いが、委員の布陣を段取った県教委事務局の腹づもりがチラチラと垣間見える部分もある。

受田委員長は高知大農学部教授で、県産業振興計画検討委員会委員長を務めた人物で、尾ア県政が最も重視している産業振興の色彩が濃い布陣であることが読み取れる。

さらに委員に梼原中校長、土佐町中学校PTA関係者が名を連ねているのも印象的だった。というのも梼原高校と嶺北高校は、生徒減により存続が危ぶまれ、地域で高校を残すため生徒確保に向けた努力が取り組まれていることが共通している。

仮に梼原・嶺北両高校が廃止されるようなことになれば、生徒が通学できる範囲に高校が全くなくなってしまい、地域に壊滅的な打撃を与えることになるのは火を見るより明らであり、産業振興にシフトした委員構成、地元出身委員が入っていることを考えれば、梼原・嶺北両高校をなくす結論にはなりにくいことが想定されるだろう。

さらに県教委がしきりに強調するのが「防災の視点」。東日本大震災を受けての議論であるから、重要であることは当然である。県立高校は海岸の直近に立地しているところが少なくない。

県教委高等学校課は津波被害を受けることが明らかな立地の高校が、そこにあるべきかどうかを配置の判断に加えるとしている。これも生徒の命を守ることから当然の考え方である。

だが気を付けなければならないのは、「防災」や「産業振興」を高校リストラの口実に利用することがあってはならないということ。

津波被害が確実視されている県東部の拠点校は山側に移転すべきという声があるが、その際に山側にある既存校をこの際、統合してしまえという流れになるのではないかと気にかかる。

また過疎地の高校を守る代わりに、高知市やその周辺の高校を減らすというのでは困る。高知市の生徒は、今でさえ市内校に通えず、市外に押し出される「逆コース」が問題になり、これが経済的負担、生活面の困難を生じる原因にもなっているのに、これにさらに拍車をかけてしまう。

海辺で長期浸水エリアにある学校を廃止するつもりではないのかという声が高校関係者中で話されているが、その可能性は十分あるのではと感じている。「子どもの数が減っているのだから、どこか減らすしかない」という数合わせだけでいいのだろうか。

検討委員会の冒頭あいさつで教育長は「この計画の究極の目標は人材育成だ」と言い切った。

すべての子どもに高校教育を保障する観点が見えてこない。どうかすると産業振興のための人材育成が優先するように聞こえてしまう。過疎地の生徒も、高知市の生徒も、経済的視点を含めて、高校教育をどう保障するのかという観点で議論しないと、おかしなことになりはしないか。今後の高校再編議論を県民が関心を持って見ていくことが大事になる。(N)(2011年9月18日号掲載 高知民報)