２０１１年６月２６日

連載　尾崎県政の４年間　「対話と実行」は本物か　　�H学テ４年間で全国平均に

ホワイトボードに数式を書く尾�ｱ知事、後方は当時総務部長の中沢氏（２００８年２月１５日） 「私も正直なところ非常にショックだったのですけれども…。２ｘ＋３ｙ＝９をYについて解きなさいという問題が４人に１人の生徒が無回答。実はこの問題だけでなく、８−５×（−６）。この問題も解けていない子どもがかなりの数おりました」。 ２００８年２月１５日、記者会見で尾�ｱ正直知事は語気を強め、高知県が全国学力・学習状況調査で最下位ランクにあることについて触れた。「子供がかわいそうだ」。 尾�ｱ知事の選挙公約には「全国学力テスト最下位レベルからの脱却」が掲げられ、教育問題は尾�ｱ県政が、産業振興とともに最も重視する分野。尾�ｱ流「教育改革」が猛スピードで始まる号砲となった記者会見だった。 同年７月１日の記者会見で尾�ｱ知事は、今後４年間で全国学テの高知県の平均点を最下位クラスから全国平均に引き上げることを最大の目標にした「学力向上・いじめ問題等対策計画＝緊急プラン」を報道陣の前で詳細に説明した。 しかし、「緊急プラン」を議決するはずの県教育委員会は７月３日に開かれる予定で、知事が会見で説明した時点ではまだ議決されていない。全国学テの順位という、教育の内容にかかわる目標を掲げた計画を教育委員会が議決する前に知事が先行して公表したことは、「首長からの独立」を原則とする教育委員会制度の根幹を侵す大失策で、県教委事務局幹部からも「順番がおかしい」という声が聞かれたほどだった。 尾�ｱ県政になってから、教育現場への行政的介入とトップダウンが色濃くなったことは確かであり、学校現場での議論の積み重ねを重視しようとする「土佐の教育改革」の流れとは明らかに異なってきたことは否めない。 尾�ｱ知事は「緊急プランについて、「有名大学への進学率を上げるとか、そのようなことを言っているわけではない」とも述べ、「授業をすべての生徒に理解できるようにするのが大人の責務であり、その結果として全国学テの順位が全国平均になるはずだ」とする。 その限りにおいては知事の言い分は保護者の期待に添うものであり、県民的な支持も一定寄せられるが、実際の学校現場では、全国学テの順位や点数に一喜一憂する現象が助長され、雰囲気は一変していく。 緊急プラン策定直後の７月１１日、県議会本会議で、中西哲議員（自民）の「結果を学校ごとに公表すべき」との質問に、中沢卓史・県教育長は「調査結果は本来、保護者に説明責任を果たすことが望ましいと考える。一方、文部科学省は過度な競争や序列化を防ぐため実施要領で公開に制約を設けている。結果公開について、どの情報をどこまで公開が可能か、妥当かを検討したい」と、県教委として文部科学省が公表している都道府県別以上、市町村別公表などに含みを持たせた。 この直後、中沢教育長は取材に対して「市町村別に結果を公表するとは一言も言っていない」と懸命に打ち消したものの、学テ問題でのヒートアップは加速していく。 尾�ｱ県政の全国学テ順位へのこだわりは、「４年間で全国平均をめざす」ことに象徴される結果を急ぐ傾向、その実現のためのツールとして産業の品質管理理論であるＰＤＣＡサイクルを教員と市町村教委の「管理」に持ち込もうとしていることと関係が深い。ＰＤＣＡサイクルは結果を数値化しないと評価することができないが、この絶好の指標が悉皆（しっかい）調査（全数調査）で、該当学年の全生徒が必ず受ける全国学テの結果になる。 県教組委員長・宮地崇夫氏（当時）は県教委のＰＤＣＡ持ち込みについてこう述べた。 「高知県には作文に自分が感じたこと、考えたことを綴って表現し、クラスで読み合わせて友達との関係を変えていく誇るべき実践があるが、こういう実践が、テストに追われてできなくなっている。ＰＤＣＡは数値化しないとチェックできないが、作文の感じ方や表現力は数値化できない」。（つづく）（２０１１年６月２６日　高知民報）