2011年6月26日

不安ひろがる武道必修化 中学1・2年の男女全員 来年度から一斉 学校の実情無視

  高岡中学の道場、このような施設を持つ学校はほとんどない
来年度から全国の中学校の体育の授業で武道が必修化されることをご存じでしょうか。「礼や伝統的な考え方を理解するため」に柔道・剣道・相撲いずれかの授業を男女とも中1、2年生が全員受けなければなりませんが、中学校現場では、実態とはかけ離れた必修化に不安が高まっています。

中学校武道必修化は学習指導要領改訂にともなうもので、平成24年度から全国一斉に義務付け。中学校の保健体育の授業時数は年間105時間と定められており、うち保健、体育実技のマット、陸上、水泳、球技、さらには運動会の練習など、こなさなければならない領域が多数あるため、武道に割ける時間数は実質的に多くても年間10時間程度になります。

各中学校は秋には柔道・剣道・相撲いずれを選ぶのかを決定しなければなりませんが、どの種目にしてもハードルが高いのが実際です。「本当に困っている」(高知市内の校長)。

柔道 畳を敷いた道場と柔道着が必要(1着6000円から1万円)。怪我が心配される。

剣道 体育館で可能だが、竹刀・面や胴など防具が高価。素足で運動できるようささくれた床の修繕が必要。

相撲 土俵がない。まわしはベルト付きショートパンツで代用するが、女生徒に抵抗が大きい。

学校と市町村にとり、年間10時間足らずの授業のために大規模な施設改修は不可能。国の補助制度も大規模改築に限られ、さらに市町村負担が2分の1あることから利用例はほとんどありません。「修繕費や備品を買う予算がなく雨漏りも直せないのに対応できるはずがない。やれと言うなら金をつけてほしい」(中学校関係者)。

高知市内中心部のある中学校では「議論はこれからだが、剣道にして素振りだけにするのではないか。ただ荒れているクラスに竹刀を渡すのは難しいかもしれない。スポーツチャンバラにできないものか」などという声が聞かれました。

どこの学校も悩みが大きいのが指導者。県教育委員会スポーツ健康教育課では指導教員むけ講習会を開き、校外の専門家に依頼することも可能としていますが、年間10時間程度とはいえ、全県の学校が一斉に取り組めば校外講師への依頼は困難であり、武道の専門的知識のない一般の体育教員がわずかな講習を受けて教えるしかありません。

ある中学校の校長は「武道必修は学校の実態にあわないので、どうせすぐに変わる。それまでどうお茶を濁すかが問題だ」と本音を話します。

「学校災害から子どもを守る高知の会準備会」は県教委と話し合いを持ち、「柔道は重大事故が多く、とりわけ初心者に多い。やるからにはしっかりした施設と指導者を配置すべきだ」と強く求めています。

柔道の県下のモデル校的役割を果たしている土佐市立高岡中学校の中内康彦教諭の話 中学校段階では試合のような形式までやるのではなく、柔道のせめぎ合いを感じるところまで。急ぐと怪我もある。現状では運動用マットを使って安全面をより考えた授業をすべきだろう。(2011年6月26日 高知民報)