2011年6月12日

念書理由に固定資産税減免 旧春野町・高知信用金庫の覚書で駆け込み専決 減税額はブラックボックス 高知市

 氏原前春野町長と山本正男・前高知信金理事長の間で結ばれた覚書
 
高知信用金庫第一センター(高知市春野町)
6月3日、高知市議会は臨時会を開き、氏原嗣志・旧春野町長が高知信用金庫(山本正男理事長)と合併前に交わした覚書を理由に、施設の固定資産税を減額する条例を承認しました(共産党以外が全員賛成)。この条例は岡崎誠也・高知市長が3月31日に専決処分したもの。覚書を理由に特定企業の税金を減額することともに、議決によらず専決処分した後に議会に追認を求める手法に批判が噴出しました。

問題の条例は昨年、高知市春野町弘岡下に完成した高知信用金庫第一センターの建物と用地を対象に、これにかかる固定資産税を3年間、半額にするもの(建物は半額に、土地は用途変更により高くなった分を半額にする)。

同金庫第一センターを訪ねると、広大な研修所用地に金属質でガラスを多用したテーマパークのパビリオン風の巨大な建物が姿をあらわしました。手入れの行き届いた前庭、吹き抜けのロビーにはピアノが置かれ、シャンデリアや絵画も飾られる豪奢さ。

同金庫の矢野哲也・事業金融部長は取材に対し「昨年6月からこちらにきている。震災対応を考え、電算だけでなく本社機能も実質的に移転している」。

純益81億円

同金庫はパックローンなど個人向け金融商品や有価証券売買で2011年3月期決算で純益81億円を出すなど多額の利益を上げていることで知られます。

昨年3月、財政難を理由に固定資産税率を引き上げる条例を議会に提出した(否決された)高知市が、なぜ儲けている企業の税金を減額しなければならないのか。秘密は、平成16年3月5日に結ばれた覚書にありました。

覚書は氏原嗣志・春野町長(当時)と山本理事長との間で交わされ、@「電算センター」を登記した年から3年間、建設によって生じた土地建物の固定資産税課税額を半額にする、A春野町が合併した場合も有効に機能することを確約した内容。

しかし、合併相手の高知市が覚書を知ったのは合併法定協議会が動き初めてから。当時は「地方税上、非常に問題になる」(19年12月21日の総務常任委員会で当時の吉岡章総務部長)。覚書を理由にした税減額は困難であり、覚書を解消し、春野町が企業誘致を目的にした補助金条例を作るべきであるという認識を持っていました。しかし、春野町が条例をつくることはなく、覚書の処理は棚上げにされ、20年1月に春野町は高知市に編入されました。

信義則

合併から3年以上たちましたが、この案件が議会に報告されることはないまま。今年3月22日の総務委員会に「専決処分をしたい」と突然報告され、6月3日の臨時議会に処分追認を求める議案が提出されました。

市税務行政関係者は「この条例は企業誘致とは関係ない。あくまでも覚書の信義則だけだ。市長が覚書は有効と言うので どうするか考えた末、これしかないという後付けの理屈。既に完成している建物に後から企業誘致をこじつけることはできなかった」と舞台裏を明かします。

市役所内には税務現場を中心に、このような税減額はおかしいという強硬な意見があり、「庁内ではかなりの激論があった」(黒田直稔財務部長)。そのために庁内の意見調整が遅れ、覚書を履行するには専決処分しかなかったのが実情でした。

6月3日の臨時議会では、下元博司議員が質疑に立ち、@旧春野町が勝手に企業と結んだ覚書に高知市は履行責任はない、A今回の処分は地方自治法の専決処分をするための条件には当たらない。3年以上放置したのは怠慢であり、切羽詰まった専決処分は容認できない、B減税額を執行部が「守秘義務」を理由に明らかにしないが市民には知る権利がある、と批判。

総務委員会では全会派が専決処分にクレーム、厚生委員会は委員会の総意として執行部の議会軽視に抗議しました。本会議では岡田泰司議員が反対討論に立ち、「法的根拠を欠いたものを、信義を理由に得られる市税減額は認められない」と指摘しました。

氏原元春野町長の話 この覚書は、合併がどうなるか分からない時、春野のためになると思い結んだもの。固定資産税減額は向こうから持ちかけられ話し合いの中で合意した。覚書は高知市にきちんと受け継がれたものと思っている。

吉岡副市長の話 確かに以前は税法上難しいという解釈をしていた。この解釈を変えるのに時間がかかってしまった。(2011年6月12日 高知民報)