2011年5月1日

安全神話に学校が協力 原子力・エネルギー教育支援事業 伊方原発県学は中止に

高知県下の工業高校生徒を原子力発電所など原子力関連施設の見学に派遣する授業が、これまで県下で取り組まれており(県教委「原子力・エネルギー教育支援事業」)、平成23年度は370万円の予算が組まれています。しかし、炉心溶融という大事故を起こし、放射能汚染被害を収束する見通しもたたない福島第一原発事故を受けて、「安全神話」の生徒への注入につながる同事業のあり方は抜本的に問い直されなければなりません。

「原子力・エネルギー教育支援事業」を文科省で所管するのは原子力課立地
地域対策室という原発の広報セクション。原子力発電について学習をしなければ交付されない国費100%の補助事業です。

同事業の22年度実績は別表の通り。愛媛県伊方町の伊方原発、松山市の原子力保安研修所、さらに原子力発電と一体の関係にある高知県の本川揚水発電所などの見学に多くの生徒が動員されていることが分かります。

ここには高知工業高校が含まれていませんが、同校はこの事業を使わず、四国電力の費用負担で同様に電気科や土木科の生徒を伊方原発見学に連れて行っています。

生徒を送り出したある高校の関係者は「あくまでも教科書に出てくる発電の技術的学習として取り組んでいる。安全性や廃棄物の処理に課題があり、賛否が分かれていることは授業で補強し一方的にならないようにしている。原発の見学だけではなく、他の取り組みもやっているので理解してほしい」。

工業高校は教材に費用がかかるために、実習の材料費を捻出するための苦
肉の策として同事業を「利用」しているという側面はあるものの、実際には電
力会社の宣伝を一方的に生徒に聞かせることで学校が否応なく「原発安全神話」の片棒を担がされている現実は否定できません。

今回の福島の事故は県教委や高校関係者に衝撃を与え、新年度当初は例年通りの見学を実施する構えでしたが、急きょ23年度の施設見学を中止することを決定。文科省への補助申請から原発関連施設見学を削除する方針に転じ、学校側からの申請取り下げもあり、結果的に23年度は同事業から撤退することに落ち着きました。

藤中雄輔・高等学校課長は「事故が収束していない中での見学は中途半端にならざるを得ない。23年度はやらない。必要なら次年度以降また考える」。平田健一・高知工業高校校長は「このような事態になり23年度の見学についてどうするかはこれから先生方と話し合う」としています。

同事業について文部科学省立地地域対策室は「あくまでも原子力発電について学ぶ枠。何を学ぶかは学校が自主的に決めることだ」とコメントしており、単に施設見学をしないだけにとどまらず、事故の検証や、賛否両論の立場からの意見を幅広く聞くなど、本当の意味での原子力発電について生徒が学ぶために活用することも可能になっています。(2011年5月1日 高知民報)