2011年3月27日

コラムアンテナ 「崩れ去った原発安全神話」

圧力容器を模した「原子炉トランポリン」(2009年2月、経産省のイ
ベント 高知市)
福島第一原発の深刻な事故が最終的にどうなっていくかは、まだ誰にも分からないが、これまで電力会社とそれにつながった東芝・日立・三菱、さらにはアメリカGEなど日米巨大企業、これを背景にした自民党を中心とした政治が遮二無二に進めてきた原子力政策の破綻を意味していることははっきりしている。

高知県では1980年代からの窪川原発、最近では東洋町の高レベル放射性廃棄物最終処分場誘致を県民の強力な反対闘争で食い止めた歴史があるが、その過程では電力会社とそれと癒着した保守系政治家が、「安全神話」をバラマキながら札ビラで過疎地を露骨に工作し、地域をズタズタに引き裂く光景を幾度となく目の当たりにした。

東洋町で核廃最終処分場の文献調査がごり押しされようとした時に、橋本大二郎・前知事が「非常に苦しい地方財政の中で、金で頬を叩くような形で町長や議会を同意させていく国のやり方はおかしい」と国の原子力行政に猛然と抗議したことは今でも鮮明に覚えている。

反対する県民は「金など一時。孫子に故郷を残すことが我々の世代の責任だ」とスクラムを組んだ。今振り返れば、いかにこれが正道であったかを痛感する。

原発や関連施設を作ることを高知県民は許さなかったわけだが、隣県である愛媛県西宇和郡伊方町には四国電力の原子力発電所があり1・2・3号機が現在も運転されている。とりわけ3号機はウラン燃料とプルトニウムを混ぜたMOX燃料を、従来の原子炉で流用する危険きわまりないプルサーマル発電をしている。伊方原発の直近には中央構造線による活断層があることがはっきりしているのにもかかわらず。

伊方原発と高知県境の距離は約50q。事故発生時には放射性物質が西風に乗り高知県内に飛散する可能性が高いということを、県民としてしっかり認識する必要があるのではないだろうか。高知県は原発に極めて近い隣接県なのである。

にもかかわらず国が防災指針で被害を想定しているのは半径10キロメートルまで。故に放射性物質が漏れ出た事故時に県民の安全を守るための対策は皆無であるし、住民への啓発もない。原発隣接県でありながら、あまりに無策なのだ。具体的な対策を準備することが、ハイリスクな地域であることを住民に知らしめてしまい、住民が危険性を認識することで「安全神話」が崩れ、やぶ蛇になることを恐れているからだろう。

尾崎県政は高レベル核廃最終処分場などの建設には否定的な姿勢を示す一方、伊方原発に対するメッセージは伝わってこない。津波や土石流などの災害であれば、最悪の事態を想定し、なるべく念を入れて避難を懸命に呼びかけるのに、こと原発事故では希望的観測ばかりを並べ、事を小さく見せることだけに腐心し、「なるべく逃げるな」と繰り返す政府発表や報道への大本営発表ぶりを、今回の原発事故では痛感させられた。「安全神話」を前提にした無策では県民は守れない。今あるリスクをきちんと住民に伝え、正確な情報開示、既存炉の総点検、3号機のプルサーマル発電中止、原発に依存したいびつなエネルギー政策からの脱却などにむけ声をあげていくことが急がれる。(N)(2011年3月27日 高知民報)