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田中きよむ・高知県立高知女子大教授 |
民主党政権が2013年度本格実施を狙う新たな保育制度=「子ども・子育て新システム」の具体案が1月24日に示され、情勢が緊迫しています。田中きよむ・県立高知女子大学教授(県保育運動連絡会会長)に新システムの問題点について聞きました。
−−現在の状況を。
田中 介護保険・障害者自立支援法の延長線上での「保育制度改革」が前政権から議論され、民主党政権になって加速化しています。法案のもとになる要綱ができ、今年中に法案になって提出され2013年度実施という構想が公表されている状況。要綱に基づいて国がより具体的な内容を1月24日に出しました。何月とは言えませんが、法案がいつ出てもおかしくない。大事な時期にきています。
−−新制度の問題点は。
田中 現行の保育所・幼稚園・認定こども園を、基本的に「こども園」にまとめ、事業所内保育サービス、短時間サービス、中山間地の小規模保育サービス(保育ママ)も幼保一体給付で一本化するものです。
@介護保険の要介護度認定と同じように保育を要する程度を認定することで、使えるサービスに制限をはめるのが特徴。このやり方は介護保険でも障害者福祉でも問題をおこしてきました。
A入所は利用者と事業所との直接契約に。事業所任せ、私的契約になり市町村の実施責任が形骸化します。
B介護保険や「自立支援法」で反発を招いた1割負担と同様の応益負担が児童福祉の世界にも導入されます。負担を「利益」に応じて変えるもので、たとえば保育時間、おやつなどをオプション(特別料金)化していく。足りなければ利用者が事業所に上乗せ料金を払い必要なサービスを受けるしかない。保育の必要性が高い子どもほど負担が大きくなり、親の経済力で保育に差が付いてしまいます。これではサービス産業で、保育とはいえません。
−−国から地方への子育て関連補助金をまとめるという話も聞く。
田中 国が地方に下ろす子育て関係の財源を包括的な一括補助金にして、その中で市町村が「子ども手当など現金にはこれだけ、こども園へのサービスにこれだけ」と配分を決める仕組み。現金やサービスへの上乗せも市町村の判断でやっても構わない。市町村間格差がますます大きくなります。
一括交付金の重要な基準として子ども人口があります。高知県のように子どもが少ないところでは、何に使ってもよいとドサっときても、基準が人数なので下りてくる金自体が少ない。保育所がますますスクラップ化される。子どもが少ない町村ほどジリ貧になっていきます。
−−行政責任の後退は大きな問題。
田中 国や市町村の責任が後退する中で、「金が払えない人はお断り」になる恐れがあります。選べるサービスというが、選ばれてしまう。介護保険でも障害者自立支援法でも、正当な理由がないと断れないことになっているにもかかわらず、実際には契約を拒否されている。障害があって手間のかかる子ども、低所得者の子どもがサービス拒否にあう可能性があります。
一括交付金を子どもの数に応じて下ろし、あとは市町村が判断してやれと。市町村は直接契約で事業所に投げる。国と市町村の責任が完全に崩壊し、児童福祉の概念が解体してしまいます。ナショナルミニマムからローカルミニマム、さらにはマーケットミニマム。市場での自己責任になってしまいます。市場でできるなら、そもそも社会保障など必要ありません。これでは社会保障ではなく私的保障です。
−−民主党は自立支援法廃止を公約していた。
田中 民主党政権は高齢者介護や自立支援法など現象化した問題は、野党の時には廃止すると言っていましたが、「保育制度改革」はまったく根が同じ制度にもかかわらず、鈍感なのか、鈍感なふりをしているのか、全然ぶれていません。アクセルを踏んでいます。
児童福祉法の全面的解体、児童福祉の歴史上最も大きな問題です。今反対しなければ大変なことになる。法案になって国会を通れば架空ではなく、現実になってしまいます。政府はあくまで推進する姿勢ですし、自民党・公明党がすすめてきて、民主党がアクセルを踏もうとしている。政党の数では止めることはできません。これに「おかしい」と言えるのは現場の力。与党系の保育団体ですらおかしいと意見書を出しています。立場はいろいろあるにせよ、保育の実態が一番分かっている保育関係者が大同小異で団結し、保育運動が底力を発揮すれば法案化の阻止、法案化されたとしても廃案に持ちこめる可能性はあると思います。(2011年3月6日 高知民報) |