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合築のゴーサインが出なかった第5回検討委(1月17日) |
高知県立図書館と高知市民図書館本館を追手前小学校跡地で一体的に整備する基本構想をつくる「新図書館基本構想検討委員会(宮地弥典委員長)」が1月17日、第5回目の会議を開きましたが、依然として委員に同小跡地への合築図書館建設への懸念が拭えないまま。宮地委員長が「合築がいいのか単独がいいのかを、この委員会が決めるのではない。両論併記になる。結論は議会が出す」と述べざる得ないなど、拙速な合築図書館計画への不透明感が払拭できていません。
この日の委員会のポイントは以下三点。
@県・高知市がこれまで合築図書館の床面積として示してきた1万3000平方メートルでは、新図書館が掲げる機能(閲覧スペースや蔵書能力など)は収めることができないことが判明し、床面積の狭さが委員の共通の認識になった。
Aシキボウ跡地に県立図書館を、追手前小跡地には高知市民図書館本館をそれぞれ単独で整備した場合と、合築案とを比較検討する資料が提出されたものの、合築案の優位性が浮き彫りにはならず結論は出ていない。
B面積的に充分でない追手前小跡地の東半分の土地に大規模な合築図書館を押し込めることへの不安感、休日には混雑し、都市景観上も重要な場所であるという立地条件そのものへの懸念が根強いこと。
■衝撃
とりわけ県・高知市に衝撃を与えたのが、図書館建築の権威である植松貞夫・筑波大教授の発言でした。「将来の書庫の増築は考えない方がよい。日本の建築基準法は頻繁に変わる。耐震基準が変わると増築できない。将来の増築は考えずに目一杯作っておくべき。この面積に、これだけの量を入れるのは私のこれまでの経験から言ってありえない。延べ床面積が13000平方メートルでは収めることはできない」
これまで県・高知市は、狭い敷地に一体的整備をしようとすることで生じる床面積の狭さや、蔵書がわずか20年で一杯になってしまうという指摘に対し、将来的には書庫を増設して対応するので問題ないと回答をしてきましたが、書庫増設は暗礁に乗り上げた格好に。かといって今さら蔵書能力や開架スペースを縮小するなどとは言うこともできません。
図書館建築権威者に「13000平方メートルの床面積では収まらない」と断言されては、県・高知市も見直しをせざるをえず、中沢卓史・県教育長は「一定の面積を広げることは可能」と答弁したものの、ことはそう簡単ではありません。
床面積を増やす手法について中沢氏は「28メートルの高さ規制にも配慮をしなければならい。ワンフロアを増やす考えはない。建ぺい率の緩和、点字・こども科学館分で余った分を図書館にまわすなどをして対応するつもりだ」と取材に答えました。
解説 高知県・市が示した13000平方メートルでは床面積が不足して収まらないという検討委員会の指摘は、今回の一体型図書館計画の拙速さ、根本的欠陥を露呈させました。
敷地を広げることは合併特例債を財源に使うことが至上命題の高知市のスケジュールにより難しく(現校舎のない場所に建てなければ埋蔵文化財発掘などの工期が間に合わない)であり、階数を増やすことも「お城が見えるまちづくり」のための市条例の高さ28メートル規制区域に敷地が隣接していることから、県市がこれを無視して高層化することも困難。
また仮に床面積を広げることができたとしても、建築コストは10億円規模で増加し、駐車場建設費用も加えて、建築費用が20億円近く跳ね上がることに。これまで最大限強調されてきた建築コストを削減して蔵書購入や市町村支援を充実させるという大義名分がなりたたず、論理破綻した状態に陥っています。
当初から図書館関係者、県議会・高知市議会で敷地の狭さ、延べ床面積の不足についての指摘があったにもかかわらず、耳を貸さず合築ありきで突っ走ってきたツケだといわなければなりません。(N)
1月17日の県・高知市新図書館検討委で提示された単独案と合築案の比較検討についての委員の発言要旨。
常世田良・日本図書館協会理事 それぞれ県立・市立の果たすべき機能が発揮できるかどうかがポイント。単独でも合築でも、それぞれの機能がどう発揮できるか。この委員会の議論が反映されれば単独であろうが合築であろうが、それが維持されていけば意味がある。合築か単独かだけの結論を出すのは難しい。資料充実や専門職員の配置は、予算をかけるかどうかの話で、合築だからどうこうではない。合築になったからといって上手くいくものではない。
斉藤明彦・元鳥取県立図書館長 合築は非常に難しいが、方向性がきちんとしていればやれないことはない。ある程度の方向性が示された感じはする。
篠森敬三・高知工科大教授 合築したからこそできることがたくさんほしい。組織体制を生かしてもっと積極的に合築の良さアピールを。どっちでも変わりませんと言われるとがっくりくる。合築であればこそできることを生かさないと合築のメリットが前に出てこない。経費が安くなるだけだと魅力に感じない県民、市民も多い。
吉沢文治郎・ひまわり乳業社長 私は追手前小出身で、高知の街を愛していることでは人後に落ちない。まちづくりとは地道に、しぶとく、時間をかけて地の底から沸き上がってくるもの。箱は後の話。お仕着せで「これで活性化しろ」というような話ではない。
まちづくりには愛が必要だが、「東西軸」には愛が感じられない。思い付きの羅列だけ。こういう流れの中で図書館の話がでてくるが、そうではないのではないか。
あの土地に市民図書館レベルの図書館ができ、市民の憩いの場所になることには、素敵なイメージがある。ところがそこに県立が乗って、追手前高校の時計台を見下ろす巨大構築物が、ドカンとできることだけで、追手前小出身者として、まちづくりをやっている人間として嫌だ。
合築については、メリットがあり、良い物ができるならやぶさかではない。やってみたらうまくいくかもしれない。でも、それがあの場所というのは、高知の街を愛する者として「それは無理なんじゃないか」というのがずっとある。合築図書館はどこか別にあってもいいんじゃないかという話をすると、高知市は追手前小学校跡でなければらないということなので、いつまでたっても堂々巡りになって前にすすまない、答えがでない。
僕の一番大事なメンタリティの部分なので、平行線かもしれないが、このことは譲れない。こんなことを考えている委員がいたことを何かの形で残してもらいたい。
宮地弥典委員長 この委員会は合築一体型の図書館は全国に例がないので、どういう図書館を想定して議論すればいいのかという基本構想を示す委員会だ。合築がいいのか、単独がいいのかという判断をするのは議会の議決。今日、資料をみて、どっちが良いということではなく、どういう比較になるかということ。まとめでは、それぞれ両方のメリット、両方のデメリットを併記して提案になると私は考えている。
森尾靖子・市民図書館協議会委員 当初から合築構想をたてるという委員会で、事務局が用意した資料に逐一意見を述べて今回まできたが、それで構想がまとまったとしても、木をみて山をみていない。
図書館は何のためにあるのか。市町村図書館は、県立は何のためにあるのか。建てられた図書館を使うのは、もっと先の世代。この世代に構想が噛み合っているのかどうか。高知県の図書館の環境はどうあってほしいのかということを、意見を出し合っておく必要があるのではないか。資料の一つ一つの意見交換で終わってしまっていいのだろうかという思いがある。もっと論議する時間がほしい。
川田恵美子・高知市PTA連合会副会長 合築して機能が高まり良い面があるが、ただ追手前小学校跡地の全部を使うのかと思っていたら、何割でしかない。いろんな機能を持ったものが、あの中に入りきるのか。残念でたまらない。場所がもっと広いところであれば、市民・県立とても良い物にできると思う。高知市のど真ん中で、地元の者は土日に中心部の駐車場を使うことは本当に用事がない限り避けている。郊外に大きな便利な施設ができているので、そちらに足が向いてしまう。高知市中心部の活性化も兼ねていると思うが、図書館はまた別。あのスペースに合築して、子どもの施設、視覚障害者の施設、学生がゆったりと学ぶスペースが本当に収まるのかというのが実際見てきた感想。
片岡卓宏・県身体障害者連合会会長 合築によって良い図書館ができるならいいのではないか。これから先人口が相当減る。増えることはない。箱物をたくさん作っていいのだろうか。(2011年1月30日 高知民報)
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