地上デジタル アナログ停波まで500日 

新たな難視聴 行政つかめず 
                             
2010年7月にアナログテレビ地上波放送が終了し、デジタル放送に一本化されるまで500日、1年余となりました。NHKによると高知県内の地デジ普及率は現在70%、24万世帯。地デジ対応で高知県の最大の課題だった山間部の難視聴地域に設置された共聴(共同アンテナ)設備改修にはほぼめどがついたものの、行政側が把握していない小規模な共同アンテナや新たに生まれる難視聴地域への対応など、問題は依然として残されています。

高知市まちづくり推進課によると、同市の地形による難視聴を解消するための共聴設備のデジタル化は鏡・土佐山地域で先行。行政が各集落の共聴設備の情報を把握し、設備改修への補助制度(※)を使うための受け皿となる組合の組織化などの手を打ってきました。

ところが、今年に入ってから高知市仁井田や福井地域で、山の陰になっている難視聴地域でデジタル化による難視聴が発生し、新たに共同アンテナを設置しなければならないことが、不安を感じた住民側からの相談で判明する事例が相次ぎました。

「どこにどれだけあるのかはつかめておらず、分からない。まだ残されている可能性はある。申告してもらうしかない」(高知市まちづくり推進課)という状態。

共聴設備のデジタル改修の補助制度(※)は、現状では2010年度で終了となる見通しで、万一10年度内の改修から漏れるようなことになれば、行政から支援策を受けられず全額「自腹」となってしまい、住民に大きな不利益が生じかねません。

補助制度を利用する申請には、調査や補助金の受け皿となる組織づくりなどに一定の時間がかかることから市まちづくり推進課では「なるべく早く知らせてほしい。言ってもらえれば説明に行く」と話しています。

このような状況は高知市に限らず、県下的に残されている可能性もあります。アナログ停波が迫っており、「住民が言ってくれば対応する」という待ちの姿勢ではなく、地形と局の位置から難視聴が予測できる地域を重点的に訪問して調査するなど、「テレビ難民」を生まないために自治体側が積極的に動くべき時に来ているのではないでしょうか。

※地形による難視聴解消を目的にした共聴設備改修の補助制度を使う場合は自治体が窓口。デジタル対応工事の住民負担は7000円だが、老朽化したケーブルなどを同時に更新する場合には28000円が必要で合計35000円の負担となる。低所得者などへの配慮はない。補助制度は2010年度までの予定。相談は高知市まちづくり推進課088−823−9080、県情報政策課088−823−9773。マンションや共同住宅の共聴設備、ビル陰難視聴対策共聴設備対応については総務省テレビ受信者支援センター0570−07−0101へ。(2010年3月21日 高知民報)

ビル陰、共同住宅共聴    
                                   
行政が把握していない地形による難視聴に対応するための共聴設備(辺地共聴)のデジタル対応とともに、都市部で問題になるのは「ビル陰共聴」と「共同住宅共聴(アパートやマンション等)」。辺地共聴の対応窓口は市町村ですが、「ビル陰共聴」と「共同住宅共聴」は総務省が所管する「高知県テレビ受信者支援センター(デジサポ高知)」。同センターの担当者に取材しました
 
「ビル陰」はクリア

デジサポ高知の田井洋一郎部長は「高知県はデジタルの電波が強くアナログ放送ではゴースト障害で二重映りになっていたところでも、デジタル放送なら映るところが多い。大きなビル自体が少なく、総務省が共聴より個別受信を推奨していることもあり、大きな問題はないのではないか」という認識。

現在「ビル陰共聴」に加入する60%の世帯に個別受信への切り換えが必要になることを説明したとしています。

「ビル陰共聴」をデジタル対応に改修したり、ケーブルテレビで対応する場合には、「辺地共聴」と同じ1世帯35000円の負担を上回る改修費用を国が補助する制度がありますが、これまで県内で使ったケースは一件もなく「今後もおそらくないはず」(田井部長)。

課題残る共同住宅

一方でアパートやマンションなど共同住宅のデジタル対応には課題が残ります。県下のアパート・マンションの数は約85000棟。うち38000棟ではデジタル放送が受信できることが確認されていますが、未確認の共同住宅はまだ多く残されています。

これまでテレビ高知(KUTV)のアナログ放送をUHF(超々短波)アンテナで受信していた100世帯以下の小規模住宅であれば、無改修でデジタル放送を受信できることも多くありますが、アナログ波で使われていたVHF(超短波、NHKやRKC)よりデジタル放送で使われるUHF波は減衰しやすいため、アンテナから近い部屋は映っても遠い部屋では映らない可能性があり、このような場合は電波を増幅させるブースターを設置する必要がでてきます。

デジサポ高知ではこのようなケースを調査するため、係員が訪問して部屋の電波状態を無料でチェックするキャンペーンに取組んできましたが、「2010年度の予算配分がはっきりするのは5月。来年度の無料調査キャンペーンについてまだはっきりしていない」(田井部長)。

ただデジタル化にむけた仕上げの年である2010年度も同様の制度が存続することは確実で、集合住宅の共聴設備の改修が必要でかつ改修費用が一世帯35000円を超える負担になる場合には、「辺地共聴」「ビル陰共聴」同様の補助制度が使うことができます。デジタル対応に心配がある集合住宅のオーナーや管理組合は早めにデジサポ高知に相談することがよいでしょう。デジサポ高知 088−875−7245 (2010年3月28日 高知民報))

生活困窮世帯へのチューナー配布                              

チューナ申し込み件数
     (2009年度分)
高知市 2205
室戸市 366
安芸市 134
南国市 347
土佐市 175
須崎市 78
四万十市 403
宿毛市 166
土佐清水市 200
香南市 96
香美市 277
安芸郡 292
長岡郡 91
土佐郡 45
吾川郡 248
高岡郡 632
幡多郡 220
高知県 5975
アナログ放送の終了によって、県民が高額なテレビの買い替えを強要されることになることから、国は生活困窮者への支援策(※)として地上デジタル放送簡易チューナーの無償配布事業を昨年10月から始めました。高知県内でこの事業に取り組んでいる総務省地デジチューナー支援実施センター高知事務所に進捗状況や今後の課題について取材しました。

国が無償配布する簡易チューナーは、デジタル放送の電波を受信して既存のアナログテレビで視聴可能にするための機器で、支援対象になる世帯からの申請に基づき、訪問してテレビが映るまで配線やセッティングを行い、アンテナ改修などが必要になる場合でも国側が費用を負担します。

工事進捗は1割

「支援策の周知は自治体や福祉保健所を通じてお願いしているが、概ね順調にすすんでいる」。同事務所の徳能行成・副所長は支援策の進行状況に自信を示しました。09年度に県下でNHK受信料を全額免除されている世帯は約1万世帯。うち無償配布申し込みをしたのが5900世帯(10年3月末、うち高知市が2205世帯)。「比較的うまくいっているのではないか」と順調さを強調します。

しかし、肝心の工事ははかどっておらず、3月末時点で1割強の完了率。09年度内に済ませることができなかった工事が大量に積み残されています。工事の遅れの要因について同事務所は「電話で連絡しても、なかなかつながらず工事の日程が組めないが最大の要因だが、09年度分は夏までには済ませたい」としています。

まもなく2010年度分の申し込みが始まることもあり、迅速な工事完了は急務。電話連絡だけでなく訪問活動にも取組むなど、国が体制を強化することが急がれます。

急がれる減免申請

今後、大きな問題になってくるのがNHK受信料全額免除に該当するにもかかわらず、実際にはNHKが集金にこないなどの理由で受信料を払っておらず、「減免」されていない世帯の存在。正規に受信契約をして全額免除の手続きをしなければチューナー支給の対象にならず支援策からこぼれてしまいます。

高知市の生活保護世帯は約8000ですが、藤原好幸・同市福祉事務所長は「生保受給者がNHK受信料の減免を受けているかどうか把握はできていないが、感覚的には手続きをしていない事例はかなりある」。県下のNHK受信料全額免除の総数が1万世帯しかないことを考えれば、現実には大量の「潜在需要」があることが伺われます。

チューナー無償配布を受けるにはNHKに減免申請を提出し、さらに総務省に申し込み書を送付する手続きが必要であり、高齢者や障害者など行政側が援助しなければ難しい世帯も少なくありません。同市福祉事務所では「支援策からこぼれる人がでないよう、ケースワーカーの訪問時には、テレビのことを聞くように徹底する」。テレビ難民を出さないために能動的な支援が急がれる時期にきています。

※生活保護世帯、障害者手帳を持ちかつ非課税世帯などNHK受信料を全額免除されている世帯が対象。(2010年4月11日 高知民報)