2010年11月14日

コラムアンテナ 「山内新資料館 あれもこれもでなく」

新資料館建設が予定されている財務事務所敷地
高知県が財務事務所跡地に民間駐車場の土地を買い足し平成26年度完成をめざす山内大名家資料を保存展示する「新資料館」の骨格が10月5日の第3回基本構想検討委員会で明らかになり、ほぼ固まった。

「新資料館」には@保存、A研究、B公開、C学習、D交流の目標があり、それらを具体化する設計に来年度から入っていくという。

検討委の議論を聞いてしっくりこないのは博物館機能である@〜Cと、中心商店街性化策としてのDとの水と油ぶり。「新資料館」の最も重要な目的である資料を保存し、学術研究の場としての機能を追求しようと思うと、どうしても商店街活性化策と齟齬が生じてしまう。

博物館学にくわしい文化行政関係者は「極言すれば博物館とは資料をしまうところ。見せるところではない。高野切も実物を常時見せることには絶対ならない」と断言する。

これまでの取材でも収蔵庫の空気の流れ、温度、湿度などについて関係者が極端に敏感なことには驚かされたし、工事後には化学物質を落ちつかせるため半年、1年は建物を放置する工程が必要になるなど、通常の感覚とはまったく異なるのが博物館の世界だった。

「新資料館」は5つの目標すべてを網羅しなくてはならず、「てんこ盛」(文化行関係者)。のべ床面積5000平方メートル、3階建という縛りがあらかじめかけられているため、@〜Dを矛盾なく押し込めるのは至難の業だろう。

象徴的なのが収蔵庫で、「新資料館」の最も大切な目標は「保存」のはずであるが、当初640平方メートルしか面積を割り当てられていなかった。これには渡部淳・土佐山内家宝物資料館長が「到底入らない」。

フロアを二層化することで何とか折り合いをつけ、県側は「将来の寄贈にも対応できる余裕ができた」とするものの、渡部館長は「二層化してもなんとかギリギリ。寄贈に対応する余裕はない」と発言するなど、最も大事な「保存」で、早くも現場軽視、ほころびが見え隠れするのはいかがなものか。

さらに気になるのは人員の配置である。県側の発言を注意深く聞くと、これ以上学芸員を充実させるつもりはなく、中心市街地活性化策を担うスタッフを新たに置くようなことを言っていた。
 
もちろん「新資料館」はこれから建設され、運営が県直営か、指定管理なのかも建前上は白紙。指定管理になったとしても財団法人・土佐山内家宝物資料館が指定されると決まっているわけでもないという、隔靴掻痒的なまどろこしさが付いて回るが、@〜Cの博物館機能は、指定管理者に指定されるであろう財団法人・山内宝物資料館が総力をあげるとして、Dの役割を担うのはどこなのか。中心市街地活性化策を山内宝物資料館が担えるはずもない。

この日の検討委では商店街関係者が「保存研究だけでなく商店街活性化のために、商業施設のような外観にすべきだ」と述べ、大学出身委員が「これはあくまでも学術施設だ」と火花を散らす一幕もあったが、県の姿勢をみていると、Dに傾斜しすぎているように思えて仕方がない。

このところ県政・高知市政の重要課題で「中心市街地活性化」という観点が入ると、妙なバイアスがかかり判断が狂うケースが続く印象が強い。「新資料館」は40億円以上の巨費を投じ、満足な保存場所がないため貴重な資料の劣化がすすんでいる積年の問題をクリアする県立の大切な施設になる。あれもこれもと目先にとらわれるのではなく、核となるべき目標では妥協しない、しっかりした施設になるよう願う。(N)(2010年11月14日 高知民報)