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討論に立つ塚地佐智議員 |
10月14日の9月県議会最終日、「日本共産党と緑心会」の塚地佐智議員が行った県立図書館と高知市民図書館の一体的整備関連予算削除と単独整備を求める請願の趣旨に賛同する討論の要旨を紹介します。一体的整備に賛成する会派からの討論はありませんでした。
塚地議員 今後50年間の高知県、高知市の図書館行政のあり方を決定する新図書館建設にあたり、県民、図書館関係者の声を聞くことなく、追手前小学校跡地への合築を前提とした基本構想検討委員会を認めることはできない。
■鳥取県立の教訓
今議会中、高知県議会文化振興議員連盟による勉強会が開催され多くの議員が参加した。人口60万人の鳥取県立図書館の斉藤明彦元館長の講演は示唆に富んだものだった。年間1億円の資料費、「読書する図書館から役に立つ図書館、役に立つと認識される図書館」へ。あらゆる専門家、情報、各機関と県民をつなぐ情報拠点として進化している。400台の駐車場でも不足し、蔵書拡充の必要から現在の9000uの床面積でも足りず、県立図書館だけで13000uは欲しいと話し、広い無料駐車場は必須だと力説した。
人を育てることが県勢浮揚の要。県立図書館はその中核施設としての責務と機能を発揮しなければならないとの熱い思いが伝わり、本県の県立図書館の目指す方向が指し示された。80万県民を視野に入れ、昨年8月に作成された「高知県の図書館行政のあり方提言」と多くの部分が一致する。
県立図書館と市民図書館は担うべき役割と機能が違い、さらに分化が進んでいる。県市合築は前例の無い事業で失敗すれば重大な禍根を残しかねない。両図書館の前館長は「結果的に互いに業務が干渉し、中途半端になる。機能拡充どころかスケールデメリットが多い」、「合築は拡充する発想ではなく引き算になる」と実質反対の声をあげ、今日も発信している。
しかし計画は、現場と専門家の声を無視し、明確な管理運営方針を示すことなく追手前小学校跡地への合築ありきでつくられた。窓口業務を高知市に一本化、本を選ぶ選書活動も一体にするなどの方針をデメリットも考慮せず合理化しようしていることに図書館関係者から批判と不安の声が寄せられるのは当然だ。「合築では良い図書館にならない」との懸念は立地場所、合併特例債の期限に連動した平成26年度末の完成スケジュールなど一層強まっている。
■見えない利便性向上
図書館用地として跡地全部を使えるとの受け止めがあり、総務委員でさえ、その半分程度しか活用できないとの認識になっていなかったことも審議で明らかになった。スケジュールを逆算すると校舎の建つ部分は図書館建物には使えず、1フロアは約3250uにすぎない。205万冊の蔵書機能を持たせるため、のべ床面積の35%が巨大書庫となり、開架書棚と閲覧スペースは現在の極めて狭隘な両図書館の2倍にも達しない。
新図書館が整備されると来館者数が数倍になることは教育長も答弁した。統合された場合には年間100万人をこえる利用者が想定されるが、開架書籍数を28万冊としているために実質閲覧スペースは2倍弱よりさらに狭く、利便性があがるとは考えられない。
あまりに巨大な閉架書庫は本の出し入れに人手と時間がかかり、効率的でも機能的でもない。県立図書館の基本的機能は、各図書館への長期貸出書籍や貴重書籍、郷土資料、専門書などあらゆる書籍を蔵書しておく機能だ。十分機能していれば市町村図書館は莫大な蔵書は持たず住民要求に応えることができる。貴重な高知市中心部の一等地を巨大な本の倉庫にはせず、県立図書館は単独で整備を行うのが妥当だ。
■解決できない駐車場
駐車場問題が大きな課題であることは衆目の一致するところ。子ども科学館構想も出され必要性が一層高まった。平地での整備は困難で立体・地下が検討されているが、周辺の交通事情や、新たな建設費負担、さらに工期との関係でも十分な台数を確保できる明確な説明が今に至ってもなく、無料駐車場を求める住民要求に背を向けるものだ。
合築メリットとしてあげられたコスト軽減も、施設建設や機器整備費、人員増の必要性は考慮されておらず意味のある額とはいえない。高知市は合築で合併特例債の充当できる面積が減り、削減効果が縮小されることも明らかになった。
合併特例債の期限にしばられ、わずか3カ月足らずで中間取りまとめ、5回の基本構想検討委員会で合築計画案にお墨付きが与えられることがあってはならない。
図書館建築の専門家は、タイムスケジュールは極めてぎりぎりで、管理責任と所有権の明確化が細部にわたってされていなければどんな問題にも協議を要し、極めて事務的、時間的ロスが大きく、今後に課題を残すとの懸念を表明した。その指摘は日々複雑に絡み合う図書館運営にも当てはまる。複雑で無駄な労力を排除し、本来の県市それぞれの機能を将来にわたって発揮できる図書館整備を先進地の滋賀県や鳥取県などから深く学び、機能分化を鮮明にした単独整備の方向で改めて検討することを求める。
解説 県立図書館と高知市民図書館本館の一体的整備を高知市議会、県議会(※)が関連予算を可決したことで、県内外の「専門家」による検討委員会が設置されることになり、合築問題は新たな段階に入りました。
9月県議会では自民党が合築を礼賛したものの、共産党と緑心会とともに公明党が予算委員会で単独整備を求めるなど低調な議論に終わった高知市議会とは異なり、緊張感のある質疑が展開され、県立図書館の果たすべき独自の機能、追手前小跡地への一体型整備には問題が多いこと、議論があまりに拙速であることが賛成派議員も含め多数の議員の認識になりました。その自信のなさは、関連予算削除を求める修正案に反対する討論ができないことにあらわれています。
議案が付託された総務常任委員会では自民党議員が合築に批判的な質疑を抑える発言を繰り返し、「万が一の場合は教育長の責任」(自民・樋口秀洋議員)と執行部をチェックする議会の責任を放棄するような不見識な発言まで飛び出す始末。不真面目さが目立ちました。
同時に予算委員会で単独整備を求め、総務委員会でも問題点を指摘しながら予算に賛成し、請願に反対した公明党や民主党・県民クラブの態度は不可解なものです。
今後のスケジュールにはまったく余裕がなありません。県教委は10月中に何としても検討委員会を始めたいものの、メンバー確定や日程の調整に手間取り、微妙な状況。しかも月1回程度の審議で来年1月には「中間報告」を出さなければならず、全国に先例のない県市一体型図書館をじっくり検討することはすでに不可能な状態です。駐車場の確保に代表されるように、議会で執行部が答弁に窮し「検討委で議論する」と先送りした課題が解決する展望も見えていません。
県民が日常的に活用するニーズの高い施設建設で、これほど拙速で粗雑な手法は異例。巨費を投じながら後々まで評判の悪い「かるぽーと」の二の舞になる危険性は充分あります。このような流れに歯止めをかけるためには、県民参加こそが急がれます。住民や利用者が、あるべき図書館の姿を大いに語り合い、県民的な議論を巻き起こしていくことが大切です。(N)
※関連予算削除を求める修正案は共産緑心と坂本茂雄、沖本年男議員の賛成少数で否決。単独整備の検討を求める請願の賛成は共産緑心のみ。(2010年10月24日 高知民報)
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