2010年10月3日

コラムアンテナ 田母神講演 須崎市平和行政の汚点

田母神俊雄・元空幕長(須崎市民文化会館、9月20日)
当日会場内で配布された「資料」
日本の侵略戦争を否定し、「コミンテルンのスパイがハルノートを書かせて真珠湾を攻撃をさせた」などという特異なタカ派発言を全国で繰り広げている田母神俊雄・元航空自衛隊幕僚長の講演会が9月20日、須崎市立市民文化会館を会場に開かれた。

田母神氏の話は高知県内ですでに数回開かれ、発言の内容も想像のつくものではあるが、今回看過できないのは須崎市と同教育委員会の関与。

主催者の一員は同市教委の施設である市民文化会館(須崎商工会議所に指定管理者委託)であり、須崎市・同市教委、さらに高知新聞・高知放送・テレビ高知・さんさんテレビ・エフエム高知・よさこいケーブルネットが後援に名を連ねた。

では田母神氏は会場でどんな話をしたのか。須崎市や同市教委、マスコミが主催・後援するにふさわしいものだったのか考えてみたい。

会場には250人ほどが集まったが、入口で産経新聞の購読申し込み書や、タカ派団体の機関紙が配布されるという異様な雰囲気。

田母神氏の話自体は「危険人物の田母神です」と切り出して笑いを取るところまで昨年の講演会と瓜二つだったが、全体を貫くトーンは「アメリカの日本弱体化計画によって日本がだめになった。これを改めるために民主党政権ではなく、日本の伝統文化を守る保守政権を誕生させなければならない」というものだった。

田母神氏は「地方から日本国全体を変革する草莽の士として、同志と共に政治活動を実行していく」ことを目的とする政治団体「頑張れ日本全国行動委員会jの会長を務めている。

講演の中でも「ここまで政権が左翼化してしまうと、政治に保守の声を届けるために頑張らねばならない。全国に(頑張れ日本全国行動委員会の)支部を作り政治に声を届けていく」、「産経・正論・WILL・チャンネル桜・やまと新聞という保守の言論を支援する必要がある」と呼びかけるなど、特定イデオロギーと組織拡大を目的にする政治的意図を持った催しであったことは明らかだった。

このような偏向した催しを公正・中立さが厳正に求められる須崎市や同市教委が主催・後援に関与して後押しすることが許されるのだろうか。

田母神氏の具体的な主張は、「日韓併合を謝罪したら富を韓国に持っていかれ、また日本が損をする」、「日本は唯一の被爆国なのだから世界で唯一核武装する権利がある」、「教育勅語の復活」、「南京大虐殺は戦後アメリカによって作られた嘘、捏造」などというあいかわらずのものだったが、この日とりわけ田母神氏が力を入れたのが日本の朝鮮半島支配について。

「(朝鮮半島を)植民地にしたわけではない。対等合併みたいなもの。朝鮮人に日本人としての権利を与えるため日本政府は努力した。朝鮮人も士官学校に入り、日本兵を指揮した。京城帝大は大阪や名古屋より早く作られた。白人国家の愚民化政策とは対極をなす。日本は李王朝を守り道路、橋、鉄道、学校、ダム、発電所を投資した。白人国家の搾取とはまったく違う」

アメリカからの独立を主張し、「国家は利益で動く。善意では動かない」と強調する田母神氏であるが、こと戦前の日本の行動については、朝鮮の主権侵害にはまったくは無頓着に植民地支配のために必要とした日本の行動をすべて善意ということにしてしまう。ご都合主義も甚だしい。

同市教委は今回の後援を「様々な考えを聞く機会を市民に提供するもの」としながら、「次回からより慎重に検討し、講師選定も事前に協議する。今回は不備があった」と一定の非を認めていた。

しかし、次回から駄目なものが、なぜ今回は構わないのかよく分からないし、平和市長会への参加や須崎中学校の長崎訪問など、同市が長年培ってきた平和行政、平和教育を汚すものとなってしまったことは否めない。関係者は猛省してほしい。(N)(2010年10月3日 高知民報)