2010年9月5日

高知県・高知市図書館一体的整備 財政論先行し特例債に駆け込み 立地は北東グラウンド部分

一体的図書館を建てることが想定されている敷地の北東部分
8月24日、尾崎正直・高知県知事と岡崎誠也・高知市長は、県立図書館と高知市民図書館本館を高知市追手筋の追手前小学校跡地に合築=一体的に建築する方針で合意。県・高知市の長年の懸案であった図書館整備が急速に動き始めましたが、「一体的整備」の実態は財政論が先行した実質統合であり、十分な面積が確保されず県立図書館が果たすべき機能がスポイルされることを懸念する声が県下の図書館関係者からあがっています。

24日の会談では岡崎市長が「できれば合同で整備を」と提起し、尾崎知事が「おおいに賛同する」と回答。理由として「利用者の利便性」が強調され「一つのカードで県立・市民どちらの本も借りることができ、書架の共有で敷地面積を削減できる」(岡崎市長)、「箱物にかかる金、毎年の運営経費を大幅に削減することができ、その分をそれぞれの機能充実強化にむけていくことができる」(尾崎知事)

翌25日には報告書「高知市立追手前小学校敷地への県立図書館・市民図書館の整備について」を公表しました。報告では一体的に整備される新図書館の想定面積を13000平方メートル、県市あわせた蔵書は205万冊が目標にされ、貸出カウンターや書庫を一本化する方向が打ち出されています。両図書館の合築には県図書館協会が反対決議をあげるなど、県下の図書館関係者から強い反対の声が出ています。

解説 この報告書は県市関係者によるワーキンググループが出したものですが、県側のメンバーは県財政課長、政策企画課長、生涯学習課長、教育政策課長、図書館長、市側は財政課長、総合政策課長、図書館長など完全に財政主導。強硬に一体的整備に反対していた両館長が退職した直後の今年5月から検討がはじまり、実質3回の打ち合わせしかしていません。

「あくまでも追手前小の敷地に一体的整備をする場合の課題を検討する場」(県関係者)であり、単独整備や他の場所を想定したケースを比較検討した形跡も見られません。県教委関係者にも「高知市の財政事情があり議論を始めることが遅れた。拙速と言われれば、そういう面はあるかもしれない」という声があるなど、尾崎知事が8月26日の記者会見で強調した「熟慮を重ねた」という発言と実態とはずいぶん異なります。

県市一体的整備の懸案となっていたのが県が市有地である追手前小跡地を利用するにあたっての地代でしたが、吉岡章副市長によると「文化施設の地代はとらないということで決着している」。

用地に困っていた県にとっては無料で土地が手に入るのであれば渡りに船。高知市も小学校を立ち退きさせてまでつくった土地の利用がまともに決まらない状態を少しでも回避したいという利害が一致したものといえますが、高知市民の貴重な財産である最後の一等地を、県立施設に無償で提供することについては、市民を納得させる説明が求められます。

現在県・市が想定している建設場所は北東側の角のグラウンド部分。合併特例債を使うためのスケジュール、平成25年3月まで生徒が通学する追手小学校の事情、埋蔵文化財調査の日程などを考えると「グラウンド部分に先行して工事をしていかなければ間に合わない。西側は当面は利用計画がなくイベント広場になるのではないか」(市幹部)。スケジュール的にも、敷地利用の面からいっても自由度が低く、本来両図書館が果たすべき役割に必要な土地の利用に制約がかかってしまうという本末転倒なことが懸念されます。(N)(2010年9月5日 高知民報)