2010年9月5日

コラムアンテナ 旧態依然 人権研修で死語拡散 高知市

森田氏とともに竹内千賀子高知市議も講師として登壇した
高知市健康福祉部のある課の職員がしたとされる「差別発言」を理由に、同部は8月25日から4回、当該職員が所属する課と隣接する二課の全職員を対象に「人権研修」を実施した。

「差別発言」とは、職員が自らのことを差して、賞味期限切れの食品を食べても腹をこわさないという趣旨で使った雑談に賤称語が含まれていたというもの。この職員は親がその言葉を使っていたのを聞いた事があったので、腹をこわさないということを意味する言葉として認識していただけで、部落差別の意図はまったくなかった。

このどこが差別なのか。発言が不適切であれば、職場で上司なりが教育的に指導すればよいだけのことだ。

部落問題に関する「差別発言」だけにやたら過敏に反応し、部落解放同盟高知市連絡協議会と一体となっての市役所をあげた大騒ぎ=確認・糾弾、研修にオートマチックに進むシステムが高知市では完成している。

エンドレスに繰り返される過剰反応には、少なくない市職員も批判を持っていて、今回の事例には解放同盟に好意的な幹部からも「ここまでやらなくてもいいのではという思いはある」という声が聞れた。とはいえ水面下で不満は言っても、公然と異を唱えることは今の高知市役所ではできないのが現実である。

当初は健康福祉部全職員を対象にするという話も聞こえていたが、同部は出先を含めると12課800人以上が所属し、多忙な現場を抱える大所帯。結果的には2課だけの「研修」になった。とはいっても約250人もの職員を、移動時間を含め午前中をつぶして「研修」させるのであるから、その人件費は膨大で、引っ張りだされる現場職員からは「何を考えているのか。たまった仕事を誰がやるのか」と憤る声が聞こえる。

それでは肝心の研修内容は、学ぶに値するものだったのだろうか。8月25日、同市塩田町の保健福祉センターを会場にした1回目の「研修」を取材した。

参加した職員は50人程度。年齢には幅があるが40歳以下の若い女性が目立つ。講師は森田益子・部落解放同盟高知市協常任顧問と竹内千賀子・同議長(現高知市議)の2人が務めた。当初の計画では森田氏1人であったが、急遽竹内市議が同行して共に壇上にあがった。市職員の公務研修の講師を現職市議がやるのは通常考えられない。同部は「講師は森田さんだけと聞いていた。竹内市議がくるのは想定外だが、議員ではなく、市協の議長としてきてもらっているのだろう」。

「研修」では竹内市議が30分、森田氏が60分ほど話をした。1980年代から昨年の消防局の「差別事件」まで過去に同市で問題になった事件を紹介し、森田氏が若い頃に見聞きした体験などについて話すもので、取材中の筆者を執拗に名指しする「不規則発言」が繰り返された。取材していて衝撃を受けたのは森田氏よりも、ある女性職員が感想を述べた言葉だった。

「私は50歳になるが、今日聞いた差別用語を聞いた事がなかった。知らなかったことが恥ずかしい。50歳の私が知らないのだから、若い世代はまったく聞いた事がないはず。これを語り継いでいくためには、これまでと同じ学習ではだめだ」などと高揚した調子で発言していた。

差別用語を聞いた事がないのが、なぜ恥ずかしいのだろうか。そのような言葉が死語になっていることは喜ばしいことではないのか。死語とすべき言葉を、なぜ若い世代に引き継いでいかねばならないのか。

部落差別の真の解消と無縁な死語を拡散するのが「研修」なのか。これが勤務中に血税を使い取り組まれていることを市民はどう感じるか。いいかげん目を覚ます時ではないだろうか。(N)(2010年9月5日 高知民報)