2010年7月25日

コラムアンテナ 人権力は養われたか?辛淑玉高知講演

講演する辛淑玉氏
7月13日、高知県立美術館ホールを会場に開かれた高知市・同市教委が主催する「部落差別をなくする運動強調旬間」講演会で辛口の論評で知られる辛淑玉氏の講演を聞いたが、なんとも後味が悪かった。

辛氏の講演は、在日朝鮮人の彼女が本名を名乗って生きてきた生い立ち、在日韓国人・故つかこうへい、オバマ米大統領、米兵とアジア女性の間に生まれたアメラジアン問題など、民族や人種差別をテーマにした話、抜群の話術とあいまって聞かせるものがあった。

だが本集会のメインテーマであるはずの部落問題については、残念ながらピント外れが多すぎた。一運動団体の主催であれば、それでよいかもしれないが、市民の税金で講師料を支払っている催しである。内容について紹介し、批判してみたい。

辛氏は「解放住宅」(地区改良事業で建てられた改良住宅のことを指していると思われる)に「一般」がどれくらい入っているのか、「部落」と「一般」の割合、混住率が一目で分かるという。

「今八割くらいとかね、当たるんですね」

彼女がそれを判別している理由について、客席の参加者にマイクを突きつけ、「何だと思う」と無理やり言わせ始めたのには驚いた。一方的にマイクを突きつけられた参加者はしどろもどろで、「洗濯物」とか「表札」とか言わされている。

辛氏はたたみかけるように「どういう洗濯物が一般で、どういう洗濯物が部落?」。このような気分が悪くなるようなやりとりが約10分間も続いた(嫌がって回答しない者もいた)。

辛氏は要するに「部落民」の見分け方を、客席を回って説いたわけであるが、彼女が開陳したその回答は、「一般」が増えると住宅が汚くなるということだった。「部落」の人は差別されてはいけないからと掃除をするが、「一般」の人はしないというのである。

不思議なのは辛氏は「部落」と「一般」の割合が当たると言っていたが、誰に正解を聞いたのだろうか。同和行政を根拠付ける法が完全失効した今日、いまだに住民に「部落民」のレッテルを貼ってカウントしている行政があるとすれば、まるで「壬申戸籍」であり、重大な人権侵害である。彼女はなぜそれを糾弾しないのだろうか。不可解としかいいようがない。

まして「一般」が増えると汚くなるなどとは、何を根拠に言っているのか。偏見としかいいようがない。

辛氏は平和問題などでは優れた発言をしてきたこともあるが、著書『差別と日本人』と同様、こと部落問題になると、少数民族問題と混同して「血」でとらえることしかできていないし、話にリアリティが乏しい。

講演会場にいた同市住宅課長に「混住が進むと住宅が汚くなるという実態があるのか?」と意地悪く聞いてみたが、首を横に振っていた。当然だろう。さらにこの講演会で開会あいさつをした市人権同和行政の責任者である副市長に「市主催の講演会で、こういう発言は不適切では」と指摘したが、「コメントする立場にない」という回答しかなかった。「人権力を養う」というテーマとは、ほど遠い講演会だった。(N)(2010年7月25日 高知民報)