2010年7月25日

コラム南炎 つかこうへい死す

つかこうへい=本名・金峰雄、在日韓国人二世。7月10日に62歳の生涯を終えた。つか作品は若い頃、好きでよく読んだ。「熱海殺人事件」、「つか版・忠臣蔵」、「蒲田行進曲」、「幕末純情伝」・・・▼アングラ劇団出身のつか作品には、毎回これでもかというように「河原者」、「河原乞食」=演劇関係者という自らをモデルにした人物が執拗に登場し、「河原乞食にも意地がある」というテーマが貫かれていた。また、あえてブスだのハゲだの挑発的で「差別的」なセリフを使った作風が印象に残る。一方でつか自らが書いたものには、自らが在日二世であることを声高に強調したものはみあたらない。あえて差別者然とした表現をすることで、何かしらバランスをとろうとしていたのではないかという気がする▼映画化され大ヒットした「蒲田行進曲」(深作欣二監督、風間杜夫、松坂慶子、平田満出演)で多くの人に知られたように、つか演出は機関銃のようにテンポが早く、わざとらしいオーバーアクションとコミカルな演技が特徴だが、哀しくてやさしさがあった。池田屋騒動の「階段落ち」、ヤス=平田の命がけのスタントも河原乞食の意地なのだ▼つかは遺言として「恥の多い人生でした。墓はいらない、葬儀は遠慮する。しばらくしたら日本と韓国の間の対馬海峡あたりに散骨してもらおうと思う」と娘にメッセージを託している。帰化せずに韓国籍でありながら、韓国語を話すことができなかったつかは、韓国人でも日本人でもなかった。その居場所のなさ、不安定さが、彼のラジカルさの原動力だったのかもしれない。時間ができたら、つかの作品をじっくり読み返してみようと思う(ひ)(2010年7月25日 高知民報)