2010年6月20日

コラムアンテナ 新歴史資料館が始動

四国財務局高知財務事務所
高知県が所有する「高野切」をはじめとする約67000点の山内大名家資料を保存・展示し、さらに中心商店街活性化や観光に貢献することを見据えた県立「新資料館」計画が動き始めた。

平成22年度中に基本構想をつくるための提案業者を選定する公募がプロポーザルですでに始まり、6月9日には外部委員による第1回基本構想検討委員会(西山昌男代表)の議論も開始した。

この検討委員会では渡部淳・土佐山内家宝物資料館長が山内大名家資料について「日本の大名家の中でも量質ともに第一級の資料群。歴史、美術、産業や生活の様子が分かるものまで、あるものすべてが寄贈された。土佐から日本を見ることができる全国的に貴重な資料群だ」と強調。同時に旧山内会館の保存場所の環境が劣悪であるために、資料の劣化がすすんでいること、展示公開ができていないため県民に価値が知られておらず、「宝の持ち腐れ」になっているような状況の報告があり、新資料館早期整備の必要性が訴えられた。

早期整備のため最も重要なのが場所。すでに「高知城周辺」という方針が明確に示されており、尾崎正直・高知県知事も「東西軸エリア活性化の中核として」(6月県議会提案理由説明)と述べている。

候補地としてあげられているのは@高知財務事務所跡地、A県立図書館跡地、B高知城二の丸・三の丸であるが、@以外は文化庁との協議や既存施設の移転先も明らかでないなど制約があり現実的ではない。資料の劣化が進んでいるという猶予のない状況下で、もっともゴールが近い高知財務事務所跡地を活用することが既定の路線で話がすすんでいる。この土地であれば、高知城との一体感もあり、中心商店街への人の流れを作ることも展望できる絶妙の場所といえ、よく検討して後悔のないようにきちんとしたものを作ってもらいたい。

政争の具

新しい資料館の整備はなぜここまで遅れ込んできたのだろうか。振り返ると「政争」と「三位一体改革」という言葉が浮かぶ。

平成16年、相続問題のために山内家が所有していた資料が大量に手放されることになり、当時の橋本大二郎・高知県知事が「高野切」を約7億円で購入することを決断。抱き合わせで資料約36000点の寄贈も受けることになった。

当時は自民党県議団が橋本県政打倒に血道をあげ、地元紙が常軌を逸した知事のネガティブキャンペーンを執拗に展開するなど、県政は極度に緊張していた。自民党県議らは口を揃えて「買う必要はない。無駄使いだ」と政争の具としてこの問題を最大限利用。地元紙には芥川賞作家の「支配されてきた者たちの末裔が支配者の文化を大枚払って保存するのは納得できない」という文章まで載った。

購入予算はなんとか通ったものの、緊張した県政の状況に加え、「三位一体改革」の財政難の中で、資料館建設は後景に追いやられ今日に至っている。

当時の県当局は高野切だけでなく、セットになった大量の資料群の散逸を防ぐことの重要性を懸命に説いていた記憶があるが、今振り返ると、よく決断してくれていたものだと思う。どちらが正しかったのかは明らかだ。

少し心配なのは、観光や中心商店街活性化が強調されすぎるきらいがあること。あくまでも歴史資料の保存・展示がメインであり、基本的な役割に支障がない範囲で街の賑わいに資するというスタンスは忘れないでもらいたい。本物をきちんと保存し、それを見てもらうのが一番の観光資源になるのだから。(N)(2010年6月20日 高知民報)