2010年5月23日

コラムアンテナ 民主党の苦悩 タウンミーティング

報告する広田参議院議員(5月1日、高知市立自由民権記念館)
「あなたの声をマニフェストに」という触れ込みで民主党高知県連が5月1日、高知市内で開催したタウンミーティングと称する市民との対話集会を取材した。この集会は昨年8月に政権を奪取した同党が、総選挙で掲げた公約の進捗状況を報告し、夏の参院選マニフェストに市民の声を反映させようというのが狙い。

鳩山総理と小沢幹事長の「政治とカネ」、沖縄普天間基地問題で強い逆風にさらされる同党が市民の中に入り、声に耳を傾けようという姿勢が本物であれば、主張はともかく一定の評価はできる。果たしてどのような集会だったのか。

民主党側の出席者は広田一参議院議員、大石宗県議、入党間もない黒岩直良県議、五島正規元衆議院議員ら。小沢一郎幹事長に極めて近い平野貞夫元参議院議員の姿はなかった。労組や部落解放同盟の組織動員がかけられている様子もなく、参加者は30人足らずの小規模なものだった。

冒頭、広田議員が同党の公約の実践状況について報告し、「無駄遣いの根絶と命を守る予算」を強調した。 「コンクリートから人への理念にもとづき公共事業減、社会保障・教育予算増、自民党政権が5兆円削減した地方交付税を1兆1000億円増やした」と胸を張る一方、「高知のような社会基盤の整備が遅れた地域では違和感もあるだろう。私もその一人。コンクリートと人は決して対立するものではない。命を守るコンクリートもある」と複雑な心境も吐露した。

子ども手当てについては「一番大切なのは家計を応援していこうということ。子どもを社会全体で育ていく方向性はゆるぎない」と強調しつつ、「様々な課題がある。26000円を満額支給しても教育にまわらず、保育料や給食費、医療費支援などサービスで手当てするほうが効果があるという指摘もある」などと述べた。

達成できなかった公約として示されたのはガソリン税などの暫定税率撤廃だけ。基地問題については何も触れられなかった。この後、会場からの意見に広田議員が回答したが、そのやりとりは興味深いものだった。

国会議員を減らせ 「おっしゃるとおり。参院選マニフェストでも比例区を減らす」と肯定的に受け止めた広田議員だったが、「ただ数を減らせばよいのか。民主主義が細る」という声が会場からあがり、五島元衆院議員が「定数削減はもう限界だ」と定数削減を強く批判する一幕も。

政党助成金廃止を 「助成金を受け取ってない共産党が赤旗を売ってやっているのは偉い。民主党に入るまでは無所属だったので助成金はもらっていなかった。金はかかるが、なんとかやりくりすれば可能。しかし政党の幹事長になればそうもいえないのだろう」というあいまいな回答。

普天間の米軍基地はどうなるのか 「海兵隊はどういう役割を持っているのか。本当に日本を守るのか。イラク戦争をみると海外展開の拠点ではないかなど様々な論点がある問題にもかかわらず、場所をどこにするかだけになっていることを懸念する」

米軍への思いやり予算をなくせ 「予算委員会で米軍への住宅提供の議論をしたことがある。1戸が1億円以上する住宅を提供することになっていたが、こういうことには首をかしげる。与党になったからといって米軍に手を緩めることなくやっていかねばならない」

参加者として出席していた連合高知会長が、政府の派遣労働法改定案を「不十分」と批判する一幕もあり、会場からの指摘は総じて本質的で鋭いものだったし、広田議員の回答の多くも、県民の願いに沿うまっとうなものが多かったように感じた。

もともと広田氏は自民党出身。この広田氏をもってしても、「米海兵隊は日本を守るのか」、「子育ては社会全体で」と言わざるえないところに政権交代の持つ意味と国民世論の力、さらには民主党が抱えている根本的な矛盾を実感させられた。(N)(2010年5月23日 高知民報)